最後の詰みが甘すぎる。
「廉璽くんが買ったの?」
「対局の帰りに」
どんな顔でジュエリーショップに立ち寄ったのだろう。店員はさぞや驚いたに違いない。
桜の花びらのようにカッティングされたピンクサファイアにピンクゴールドのチェーン。
渡された直後は気づかなかったが、特徴のあるワインレッドの外箱は、『Candy』というハイブランドのものに違いない。
敢闘賞として気軽にもらうには値のはる代物だ。
……まるで、恋人に贈るプレゼントのよう。
柚歩は固く口を引き結んだ。
「返す」
柚歩はネックレスを箱ごと廉璽に突き返した。
「こんな高そうな物もらえないよ。バッグが欲しいって言ったのも冗談だから気にしないで」
「柚歩」
「和室に布団も敷いたし、今日は大人しく寝なよ。明日広島に移動なんでしょ?風邪なんか引かせたら将棋連盟のお偉方に怒られちゃいそうだし……」
「柚歩」
「あ、寝る前にあったかいお茶でも飲む?淹れてくるね」
「柚歩」
この場から逃げ出す口実のようにキッチンに向かおうとすると、背後から抱きしめられた。
先日のような優しい抱擁ではない。覚悟と決意のこもった捨て身の行為。
ここまでされて廉璽からの好意に気づかないほど間抜けでもない。
それでも柚歩は知らない振りを続ける必要があった。