最後の詰みが甘すぎる。
第五局
「うーん……。瀬尾さんには悪いが、こりゃあ第七局は厳しいかもしれんなあ……」
山崎はこれまでの名人戦を振り返ると唸った。
春から始まった名人戦七番勝負も六局を終え、互いに三勝三敗のイーブンとなった。勝負の行方は最終戦の第七局までもつれこむことになる。
廉璽は第三局こそ辛くも勝利できたものの、第四局、第五局は渡部名人に大差で完敗。あとがなくなった第六局は互いに九時間の持ち時間を使い切り一分の秒読みに突入した。
渡部名人にはない若さのアドバンテージで最後まで盤面を読み切った廉璽が首の皮一枚繋げた。
渡部名人の方が棋士歴も長く経験も豊富だ。プロになってから長ければ長いほど強いというわけでもないが、名人ほどになると僅かな差が命取りとなる。廉璽は今頃痛感していることだろう。
廉璽とはあれから会っていなかった。
第四局、第五局、第六局のいずれを迎えても廉璽は瀬尾家に現れなかった。
タイトル戦の対局の前は必ずやってきたというのに何の音沙汰もなかった。