最後の詰みが甘すぎる。
「瀬尾さん?」
「これ……詰みです」
「え!?」
柚歩は山崎に教えるように棋譜を指でなぞりながら涙を流した。
きっちり十二手だ。劣勢でいつ詰まされててもおかしくないとされていた柚歩の父の起死回生の一手。
廉璽が何を柚歩に伝えようとしていたのか全てがわかった。
(お父さんはあの日勝っていたんだ……)
あの日の父の目にはこの光の道筋が確かに見えていた。
娘の自分が信じてやらなかったのに、廉璽はずっとこの手を探してくれていたのだ。
頭の中にあった意地とか後悔が弾け飛んでいく。
(そうだ……。私はただ廉璽くんと将棋がしたかったんだ)
柚歩の中に残ったのは嘘偽りのない将棋への情熱と廉璽への純粋な想いだった。
「山崎部長!!私、早退します!!今から対局会場に行ってきます!!」
もう居ても立っても居られかった。すぐに行かなければと何かに突き動かされる。
柚歩には廉璽の勝負を見届ける義務がある。
「よし!!そうこなくっちゃ!!行ってこい!!」
山崎は柚歩の背中を思い切り押してくれた。