最後の詰みが甘すぎる。
やっとの思いでホテルに到着し、対局場所はどこかと視線を巡らせていると、将棋関係者が続々と宴会場からロビーに出てきた。その中に知った顔を見つける。
「桂悟!!」
「姉ちゃん!?」
「対局は……!?どっちが勝ったの!?」
「百八十二手目で渡部名人が投了した。廉璽くんの勝ちだよ」
「よ、かった……」
結果を聞くと全身の力が抜け、その場にへたりこんでしまう。
……勝った。劣勢を覆し、廉璽が勝利した。
「廉璽くんは?今どこにいるの?」
「感想戦も終わったし取材の時間までは控室にいるんじゃないの?」
「ありがと!!」
柚歩は桂悟にお礼を言うと、すぐさま立ち上がり廉璽のいる控室に向かった。しかし、当然のことながら対局会場と棋士の控室の手前には『関係者以外立ち入り禁止』の関所が敷かれていた。
「すみません。ここから先は関係者のみのご通行となります」
将棋連盟の職員は慣れた様子で、先に進もうとする柚歩をガードした。
強行突破も辞さない考えの柚歩だったが、そこにたまたま右近寺が歩いてやってくるのが見えた。
「右近のおじさーーん!!」
将棋連盟の会長を務める右近寺のことを堂々と『おじさん』呼ばわりするなんて、とんでもない怖いもの知らずだと職員はギョッとした表情で柚歩を見つめた。
「柚ちゃん?来てたのか……」
「廉璽くんに会いたいんです。中に入れてください!!」
右近寺は職員に向かって顎をクイと横に振った。
「おい、入れてやってくれ。彼女は関係者だ。大丈夫だ。ミーハーな廉璽のファンなんかじゃない」
「ありがとう!!おじさん!!」
関所の中にいれてもらった柚歩は右近寺にお礼を言うと、ヒラリとその脇をすり抜けていった。
「これも運命の導きってやつなのか……?なあ、瀬尾……」
柚歩の背中を見送る右近寺は眩しそうに目を細めた。