最後の詰みが甘すぎる。
柚歩、廉璽、桂悟の三人の名前の中にはいずれも将棋の駒の名前が入っている。
柚歩は歩、桂悟は桂馬、廉璽は玉将。
名付けた人はよほど将棋が好きだったのだろう。柚歩と桂悟の名付け親はもちろん父だ。廉璽は将棋好きの祖父に名付けられたそうだ。廉璽の祖父はアマチュアで段位も持っているほどの腕前だった。
廉璽との初めての出逢いは十六年前に遡る。
廉璽は当時まだ存命だった彼の祖父に連れられ、瀬尾家にやってきた。
将棋会館で将棋を指すことが趣味だった廉璽の祖父は、自分の孫の類稀なる才能を早い段階で見抜き、柚歩の父にその将来を託した。
廉璽は柚歩の父に弟子入りするとメキメキと実力をつけていった。
同じ年の柚歩、ひとつ年下の桂悟とも一緒に指し合うようになり三人は将棋を通じて仲を深めていった。
廉璽は十二歳で棋士への登竜門である奨励会に入会し、十五歳で三段リーグに入り、十六歳で棋士になった。
二十歳で八大タイトルの一つである棋王を奪取。
その後もタイトル戦の常連となり、廉璽が持つ八大タイトルは今や三つに増えた。
そして今、満を持して八大タイトルの中でも最も栄誉ある名人位に挑戦しようとしている。
輝かしい経歴の廉璽に比べ柚歩ときたら。
自分が入学できそうな適当な大学に進学し、求人票の中から適当な企業を選び、今日も適当に仕事をこなしてきた。
この差は一体なんだろう。