君に向けたプロトコル
次の日の朝、玄関を出ると楽が立っていた。
「おはよ。…そろそろ、家を出るんじゃないかと思って。」
照れているのか目を合わせてくれない。
「おはよ。今日は一限からなの?」
「いや、違うけど一緒に行こうと思って…。嫌か?」
そうか、彼氏のできたお姉ちゃんと二人じゃ気まずいよね。
「ううん、嫌じゃない。」
一葉が返事をすると楽はいつも通り一葉の手を繋ぎ歩き出す。
お互い何を話せば良いのかわからず黙ったままだが、不思議と嫌な気持ちではなかった。
満員電車の中でも楽が壁となり小柄な一葉の為に苦しくないように隙間を作ってくれるのでありがたかった。
あと一駅で高校の最寄り駅だというころに楽は突然一葉にもたれかかり、
「一葉、ごめん。俺、やっぱ自信ない…。」
というと、一葉のうなじに顔をうずめた。
「どうしたの?」
お姉ちゃんのこと思い出しちゃったのかなぁ…。
自身が無いって、大学で顔を合わせたら泣いちゃいそうとか?
そっと背中に手を回して抱きしめてあげると電車の揺れのせいか楽の唇が首筋に触れ一瞬チクリと痛む。
…静電気?かな?
「楽…大丈夫?」
「あぁ、ごめん。帰り、迎えに行くから。」
「帰りも?」
「終わる時間、メッセージしといて。」
楽がそういうと、電車はホームに停車し、一葉は降車する乗客に押し出され流れに飲まれてしまった。
普段は強気な楽でも失恋の痛みにはかなわないのだろう。普段より雰囲気が柔らかいというか、弱々しいというか…。いつもみたいな強さは感じられなかった。
学校は駅から割と近い。信号待ちをしていると同じクラスの女子が声をかけてきた。
「ねぇねぇ、黒瀬さん!電車で一緒だった人って彼氏??超かっこいい人だね!」
「彼氏ではなくて、隣人というか…、幼馴染?」
「え?そうなの?でも…。」
もう一人の女子が一葉の首筋を指さす。
「何かあるの?」
「うん、キスマークついてるよ?電車でキスされてた時じゃない?」
「えっ!?キスなんてされてないよ!もたれかかっていただけだよ…。」
「でも…これ…。」
カバンから鏡を取り出して一葉に貸してくれた。そぉーっと鏡を覗き込むと赤く小さなあざができていた。
はぁっ!?楽ってば何やってんの!?…さっきの静電気って!
「教えてくれてありがとう。それから、鏡もありがとう…。」
鏡を返すと一葉は首筋に付けらえた跡が恥ずかしくて、一つに束ねていた髪を解き、他人から見えない様に髪を下ろした。
「おはよ。今日はいつもと髪型が違うね。」
前川くんが下駄箱の前で声をかけてくれた。
「あぁ…。ちょっと事情があってね…。」
「そう言えば、こないだのイベントで取られた黒瀬さんの写真がSNSに上がってたんだけど知ってた?」
「知らない…。どういうこと?」
「ほら見て。僕もびっくりしちゃった。」
前川くんが見せてくれたスマホの画面には『#マカロンちゃん#実物』とタグが付けられて先日のイベントで頼まれて一緒に移したものや、こっそり撮られたと思われる視線が外れた写真がゴロゴロと表示されていた。
「何これ…。」
「ここにあるの全部黒瀬さんだよね?」
「うん…。」
「なんか、盗撮っぽいのもあるし気を付けた方がよさそうだね。」
「今日は帰りにこないだイベントに来てた幼馴染が迎えに来るって言ってたから、相談してみるよ。」
「帰りに一人になるときは僕も送っていくからいつでも声かけてよ。」
「ありがとう…。」
そう言えば、昨日、駅で楽を待っていた時も写真を撮られていたみたいだし…。
もしかしたら、このSNSが原因だったのかも…。
教室に入ると前川くんのようにSNSのマカロンちゃんが一葉だと気づく人が何人かおり、明らかに一葉とスマホの画面をチラチラと見比べながら噂をしているようだった。特に今日は楽のせいで髪をおろしているので、普段よりマカロンちゃんっぽくなっていたから余計に目立っていたのだと思う。
「おはよ。…そろそろ、家を出るんじゃないかと思って。」
照れているのか目を合わせてくれない。
「おはよ。今日は一限からなの?」
「いや、違うけど一緒に行こうと思って…。嫌か?」
そうか、彼氏のできたお姉ちゃんと二人じゃ気まずいよね。
「ううん、嫌じゃない。」
一葉が返事をすると楽はいつも通り一葉の手を繋ぎ歩き出す。
お互い何を話せば良いのかわからず黙ったままだが、不思議と嫌な気持ちではなかった。
満員電車の中でも楽が壁となり小柄な一葉の為に苦しくないように隙間を作ってくれるのでありがたかった。
あと一駅で高校の最寄り駅だというころに楽は突然一葉にもたれかかり、
「一葉、ごめん。俺、やっぱ自信ない…。」
というと、一葉のうなじに顔をうずめた。
「どうしたの?」
お姉ちゃんのこと思い出しちゃったのかなぁ…。
自身が無いって、大学で顔を合わせたら泣いちゃいそうとか?
そっと背中に手を回して抱きしめてあげると電車の揺れのせいか楽の唇が首筋に触れ一瞬チクリと痛む。
…静電気?かな?
「楽…大丈夫?」
「あぁ、ごめん。帰り、迎えに行くから。」
「帰りも?」
「終わる時間、メッセージしといて。」
楽がそういうと、電車はホームに停車し、一葉は降車する乗客に押し出され流れに飲まれてしまった。
普段は強気な楽でも失恋の痛みにはかなわないのだろう。普段より雰囲気が柔らかいというか、弱々しいというか…。いつもみたいな強さは感じられなかった。
学校は駅から割と近い。信号待ちをしていると同じクラスの女子が声をかけてきた。
「ねぇねぇ、黒瀬さん!電車で一緒だった人って彼氏??超かっこいい人だね!」
「彼氏ではなくて、隣人というか…、幼馴染?」
「え?そうなの?でも…。」
もう一人の女子が一葉の首筋を指さす。
「何かあるの?」
「うん、キスマークついてるよ?電車でキスされてた時じゃない?」
「えっ!?キスなんてされてないよ!もたれかかっていただけだよ…。」
「でも…これ…。」
カバンから鏡を取り出して一葉に貸してくれた。そぉーっと鏡を覗き込むと赤く小さなあざができていた。
はぁっ!?楽ってば何やってんの!?…さっきの静電気って!
「教えてくれてありがとう。それから、鏡もありがとう…。」
鏡を返すと一葉は首筋に付けらえた跡が恥ずかしくて、一つに束ねていた髪を解き、他人から見えない様に髪を下ろした。
「おはよ。今日はいつもと髪型が違うね。」
前川くんが下駄箱の前で声をかけてくれた。
「あぁ…。ちょっと事情があってね…。」
「そう言えば、こないだのイベントで取られた黒瀬さんの写真がSNSに上がってたんだけど知ってた?」
「知らない…。どういうこと?」
「ほら見て。僕もびっくりしちゃった。」
前川くんが見せてくれたスマホの画面には『#マカロンちゃん#実物』とタグが付けられて先日のイベントで頼まれて一緒に移したものや、こっそり撮られたと思われる視線が外れた写真がゴロゴロと表示されていた。
「何これ…。」
「ここにあるの全部黒瀬さんだよね?」
「うん…。」
「なんか、盗撮っぽいのもあるし気を付けた方がよさそうだね。」
「今日は帰りにこないだイベントに来てた幼馴染が迎えに来るって言ってたから、相談してみるよ。」
「帰りに一人になるときは僕も送っていくからいつでも声かけてよ。」
「ありがとう…。」
そう言えば、昨日、駅で楽を待っていた時も写真を撮られていたみたいだし…。
もしかしたら、このSNSが原因だったのかも…。
教室に入ると前川くんのようにSNSのマカロンちゃんが一葉だと気づく人が何人かおり、明らかに一葉とスマホの画面をチラチラと見比べながら噂をしているようだった。特に今日は楽のせいで髪をおろしているので、普段よりマカロンちゃんっぽくなっていたから余計に目立っていたのだと思う。