君に向けたプロトコル
【SIDE:楽】

ここ数日、俺は焦っていた。
一葉は絶対に俺の事が好きだと思っていたのに、俺の知らない奴と二人でデートをしていたからだ。

先週から一華と兄貴が付き合いだした。
一葉に平気なのかと聞かれたから、正直に複雑な気持ちだと伝えた。
ずっと二人を応援していたし、今更反対なんかしないが、いざ、兄貴と同級生が付き合うとなると変な感じがした。

そして、本当ならもっと最高のシチュエーションで気持ちを伝えたかったのだが、話の流れに任せて自分の想いを伝えてしまった。

『…お前はどう思う?』

『…ゆっくり、時間をかければ良いと思う。』

 そうだよな、友達付き合いすら苦手な一葉に、突然、俺と恋人として付き合えなんて無理なんだ。
 一葉に合わせて、ゆっくり時間をかけて少しずつ恋人らしくなっていけば良い。
 断られなかったことにまず感謝した。

しかし、頭では分かっているのだが、どうも独占欲が抑えられない。学校へ行けばデートしていたあの男子生徒がいる。
嫉妬心からこっそりキスマークを付けてしまった。

 ばれたら怒られるだろうな…。

「付き合って初日なのに仕事になってしまって悪いと思ってるよ。」

運転しながら兄貴は申し訳なさそうに言う。

「いや、俺が呼ばれるってことはヤバイんだろ?」

「あぁ。今はいろんなSNSサーバーに入り込んで荒らして楽しんでいるだけだが、早く捕まえないと大事になりそうだ。」

「直ぐに炙り出してやるよ。デートを邪魔された天才ハッカーの恨みだ。」

「ストーカーの間違いじゃないのか?ははは。」

楽は子どもの頃から父親や兄がパソコンを操作するのをよく見ていし、自宅にはシステムやネットワークに関する本が山ほどあったので学ぶ環境は揃っていた。

一葉が同級生から虐めにあっていたことを知ると、こっそり喜の部屋に潜り込み、喜のパソコンを使ってあらゆる監視カメラに入り込み一葉を見守っていた。そして、トラブルが起きているのを見つけるとすぐにその場に駆け付けたのだ。
最初のうちはその程度だったが、何度注意しても止めないので、その子らの親に制裁を加えてやる!とクラックしようとしている事に喜が気づいて止めさせたので楽は大きな犯罪に手を染めずに済んだ。監視カメラに侵入している時点でアウトなのだが、損害を与えてないということで喜は目を瞑った。

楽のハッキング能力を知っていた喜は、一樹と会社を立ち上げると表向きはバイトSEとして雇っていたが、実際にはホワイトハッカーとして今日みたいな有事に備えての要員としていた。

会社に到着するとすぐにPCの前に座り顧客のサーバーへログインし、ハッカーのログを追う。
しかし、侵入することで満足したのかいくつかデータを覗かれただけ大きな被害はなかった。
既にサーバからいなくなっており、これ以上の追跡もできないので、取り敢えずセキュリティ強化と不正アクセス時の罠を張り、その日の作業は終了とした。

犯人を特定する気満々だってので、楽は不完全燃焼で終えた。
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