君に向けたプロトコル
次の日の朝、目が覚めると隣には楽の姿はなく、掛布団をかけられた状態でベッドに横になっていた。

 あのまま眠っちゃったんだ…。

半分まだ夢見心地のまま学校へと向かう。
家を出るまで何度もゲーム機を学校に持っていくなと、一樹に厳しく言われ続けたが、自分の失態で皆に迷惑をかけてしまったので何も言い返せずにひたすら「ごめんなさい、もう持ち出しません。」と同じ返事を繰り返した。

「おはよう!昨日はありがとう!おかげでマカロンちゃんの裏キャラ出せたよ。」

昇降口でトラブルの原因になった前川くんに出くわした。コミュ症な一葉にとって、彼の様な明るい性格の人物は天敵でしかない。返事を考えている間にポンポン次の言葉が発射され、あっという間に許容量を超えてしまう。そして、どの返事にもタイミングを逃してしまい困っていると最終的には無視されていると勘違いされて、嫌な人物リストに載せられてしまうのだ。

「そ…それは良かったです。」

 あぁ…、おはようって言うの抜けてしまった…。どういたしましても抜けた…。

苦手な自分物を前にさっさと上履きに履き替えて教室に向かおうとするが、前川くんはそのまま一葉の隣で話を続けている。

 そうか…たしか隣のクラスだった。そこまで一緒に行く気なんだ。

「実はさー、今度、チョコクラ3の発売記念イベントで特設カフェがオープンするんだって!良かったら一緒に行けないかなぁ?昨日のお礼に僕がご馳走するから!」

 チョコクラのカフェは行きたいけど、誰かと行動するのって苦手…。
 どうしよう…。早く返事しないとまた無視してるって思われちゃうかも…。

一葉は返事に困り、うつむいたまま教室に向かって歩き続ける。

「悩んでるくらいなら、一緒に行こうよ!」

前川くんの言葉に一葉はピタリと足を止めた。

「…なんで、悩んでるってわかったの?」

「…え?」

「いつも悩んで黙っていると大抵の人が無視しているって思うから…。」

「…あぁ、だって、黒瀬さんって表情に全部出てるもん。ちゃんと顔を見てればわかるよ!」

 ……表情。

その言葉を聞いた瞬間、彼となら友達になれるような気がした。

「分かった。一緒に行こう。」

「え?」

「イベントって今度の土曜日のでしょ?ご…ご馳走してくれるなら一緒に行く。」

「ほんとに!?じゃぁ、9時半に会場の最寄り駅で待ってるね!あと、メッセージ送るから!」

そういうと嬉しそうに手を振り自分の教室へと入っていった。
< 7 / 20 >

この作品をシェア

pagetop