彼女はアンフレンドリーを演じている
瞼を閉じてうっとりしている小山は、蒼太が美琴を想っているなんてことは全く知らずに好き勝手喋るので。
感情を押し殺しつつも鋭い視線を向けていた蒼太は、恋路の邪魔をされ兼ねない後輩が少し憎らしくなり、その鼻先をムズっと摘んだ。
「痛い痛い痛い! えっ香上さん!?」
「癖になるな、小山に美琴ちゃんは一生敵わないから」
「い、一生!? 今少しずつ攻略してるのに……」
「攻略出来ないラスボスだ、てか隠しラスボスだから」
「ええー、冴木さんどんだけ手強いんすか……」
小山の素直な性格を知っていたからこそ、当初から美琴と仕事をさせることには不安があった。
その予想は的中し、“無愛想の冴木”と呼ばれている美琴の、隠されていた魅力に少しずつ気づき始めている小山に危機感を覚える蒼太。
摘まれた鼻を押さえながら、まだまだ謎があるらしい美琴を想像する小山を横目に、のんびりもしてられないと先輩らしからぬ事を考えていた時。
「小山〜、足大変そうだね」
「あ、下田さん!」
「っ……」
一度蒼太に告白と誘惑をしたものの、残念ながら断られてしまった入社三年目の下田が、二人の下にやってくる。
あの日以降、業務で関わる事がなかった下田は、まるで何事もなかったかのように想いを寄せる先輩の蒼太にも、普段通りの視線を向けてきた。
「香上さんも出張帰りに階段踏み外すなんて、災難でしたね」
「はは……運動不足なのかも」
「病院へは冴木さんも付き添ったらしいですけど、本当ですか?」
「あーうん、そうだよ」
するとその事実を知って、下田の笑顔がスッと引いていくのが容易にわかった。
それは下田が未だ自分に好意があることが窺えた上に、恐らく今、美琴に対しても敵対心を募らせたのだろう。
美琴の部署に行った時も、険しい顔した人達が集まって何か話していたが、二人の男女関係を疑うような噂をしていたのかもしれない。