彼女はアンフレンドリーを演じている
ただ、そうなる事は予想の範囲内だった蒼太にとって、美琴と良い雰囲気の現在、外野にとやかく言われて邪魔されるわけにはいかなかったから。
あえて、包み隠さずに後輩達の前で気持ちを表した。
「そういう意味では、災難だけじゃなかったな」
「……どういう、意味ですか?」
「同期の美琴ちゃんが一緒で良かったってことだよ」
そう言ってふっと微笑む蒼太は優しい空気を放って、小山と下田に緊張が走る。
抱いている恋心まではわからなくても、蒼太が美琴を信頼しているということは伝わり、さりげない牽制にはなったはずだった。
そんな美琴に対して、ツンデレだとか癖になりそうなんて事を口走った小山は、徐々に青ざめていく。
絶対的存在の先輩である蒼太を、敵に回したくなかったから。
「……香上さん、今日のランチはこの小山に奢らせてください」
「は? 何でいきなり……」
「出張の件で大変ご迷惑をおかけしたので……」
不自然に震えながら蒼太の機嫌を取ろうとランチに誘う小山を横目に、下田は静かに沈黙していて。
その頭の中では、蒼太の隠された想いの可能性や、“無愛想の冴木”に関する情報を知る限りかき集めていた。
「(あの冴木さんのことを、香上さんが……?)」
男も女も関係なく、社内の人々にフラットな対応をしている蒼太は、自らが動かなくても言い寄ってくる人や誘いの中からいくらでも選べると思っていた下田。
しかしあの時、酒の力を借りて告白した自分が断られた理由が、一途に想う誰かがいたからなのだとしたら。
「(実らなければ、まだチャンスはあるってことだよね……)」
そして失恋して弱った心にもう一度下田のアプローチがかかった時、諦めかけていた蒼太との男女関係が動き出すキッカケになるかもしれない。
憂さ晴らしでもいい、過ちだと思われてもいいから。
もう少しだけ、夢見る時間が欲しいと願った下田は、この時ある決意をした。
それは美琴の心を、強く動かす事になるとも知らずに。