彼女はアンフレンドリーを演じている
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今日の終業時間が迫り、残業なく帰れる事を喜びたい美琴であったが、昼休みの出来事がずっと気になって浮かない表情を続けていた。
あの時、協力なんて出来るはずがない下田の頼みに、どんなふうに断るのがベストなのか脳内で言葉を選んでいると。
下田の方から“考えておいてください”と猶予を与えられ、そしてスッと立ち上がり退席していった。
「(下田さんは、なんで私にあんな事……)」
自分は蒼太が好きだから手を出すな、という牽制だったのか。
それとも美琴も好きなら先輩でも手加減しない、という宣戦布告だったのか。
加えて、協力に関する答えを急がないというのも、目的はそこではないと言われている気がした美琴は、ますます考えがまとまらない。
「(そしてその下田さんは、今も……)」
蒼太と同じ部署にいて、同じ空気を吸って仕事をしているのだから。
少しだけ、羨ましいとも思ってしまった美琴は、胸の奥でチクリと針が刺さる感覚を味わう。
その時、向かいの席で仕事をしている、先輩の山本が立ち上がって美琴に声をかけた。
「冴木さん、定時上がり?」
「あ、はい」
「悪いんだけど、帰る途中にこれを営業部に届けて欲しくて」
そう言って、今後のスケジュールが印刷された一枚の用紙を渡してきた山本は、眉を斜めに下げてお願いしてくる。
「香上くんに頼まれていたのにすっかり忘れてたんだよ」
「……わかりました、本人に渡しておきます」
「ごめん、今日納期ギリギリの案件も抱えてて、だからお願いします」
そう言って両手を合わせた山本の指で光るものが見え、思わず声が出た。
「指輪……?」
「え? あ、うん実は昨日入籍したばかり」
「わ……それは、おめでとうございます!」
「ありがとう、これでやっと社内恋愛を卒業できたよ」
「……社内恋愛?」
あまりにタイムリーなキーワードを耳にして、聞き流すことができなかった美琴。
その反応を見て、人に関心がないと思っていた後輩が、何やら興味を示す眼差しを送ってきていることに、山本はつい頭をかいて照れ始める。