彼女はアンフレンドリーを演じている
すると自分の手元を見つめながら、ようやく打ち明けてくれた下田は、少しだけ悲しげな表情を浮かべているように見えた。
「私、香上さんの会社での“価値”に惹かれていました」
「……は、い?」
「信頼されて仕事も出来てモテて、そんな香上さんと付き合えたら私の価値も上がる、と」
「……」
「最低なのはわかってるんです、でも今までもそうでしか人を好きになったことがなくて」
そんな形でしか人を好きになれない自分の価値は底辺であり、だからこそ蒼太のような人間に惹かれる事をやっと自覚した下田。
それを気付かせてくれたのは、蒼太への想いを包み隠さず、あんな強気な瞳で曝け出した美琴だった。
“下田さんと、同じです”
同じなんかじゃない。自分は美琴のように、どんな事があっても譲れない本気の“好き”を語る瞳をしていないから。
そうして徐々に罪悪感が生まれた下田は、蒼太に真実を話して告白を取り消してもらい、自分を変えるところからやり直したいと考えた。
「まあ、どのみち私は振られてるんで香上さんにとってはどうでも良いことなんですけどね」
「いや、どうでも良くはない」
「……」
「それに俺が言うのもなんだけど……下田さん、間違ってますよ」
そう言って真剣な表情を向けた蒼太の姿が、恐る恐る顔を上げた下田の瞳に映る。
「ちゃんと価値ありますから、下田さん」
「っえ……」
「それだけは納得できないです、すみません」
下田の生き方や考え方を否定するつもりはないが、後輩である小山への気遣いや仕事への取り組み方に価値がないなんて思った事がない蒼太は。
その間違いだけは、どうしても訂正したかった。
ただ、その真っ直ぐな言葉は下田の心に届き、救われたような温かさを覚える。
「……ありがとうございます、今ので改めて好きになりそうです」
「え! あ、それはちょっと……」
一度断っている上に、何度好きになられても応えることができないと決まっている蒼太が、美琴を思い浮かべながら困っていると。
「冗談ですよっ」
「……下田さん、嫌な人ですね」
「ふふ、いっそ嫌われた方が振られた私はスッキリします!」
そう言って、再びいつもの笑顔が咲いた下田は、普段何事もスマートに対応する抜け目ない先輩が、面白いくらいに焦っている様子を目に焼き付け。
もう少しだけ、歪な片想いの余韻に浸りたいと思ってしまった事を、心の中で美琴に詫びた。