彼女はアンフレンドリーを演じている
その表情を見た蒼太は、入社当初の美琴を思い出し、やっと取り戻せた笑顔を優しく抱き寄せた。
「美琴ちゃんの笑顔見ると、出会った頃の記憶が蘇る」
「え?」
「今思うと一目惚れってやつだったのかも、初めてだからわかんないけど」
「そ、そんな前から……」
自分のことを想っていたの?と、初めて聞かされた話に驚いていた美琴は、当時を思い出そうとするもそんな素振りは一つも見当たらなくて。
すると、ニコリと微笑んでいたはずの蒼太が突然、険しい顔へと変化した。
「長屋さえいなけりゃもうちょっと早く手ぇ出せたのに」
「は!? 何、言って」
「あー奴の顔思い出したら腹立ってきた」
「ええ……」
「はは冗談だよ、今はもうどうでもいい」
口ではそう言うが、冗談に聞こえないトーンで話されると、少し不安になる美琴。
ただそれも、きっと二人の時間を積み重ねていけば他のことなんて気にもならないくらい、幸せに満ちた未来が待っている。
「……蒼太くんモテるから、先に言っておくけど」
「え?」
「私も意外に、ちゃんと妬いたりするから……」
「!!」
「だから……」
先輩の山本との会話を思い出しながら、視線を逸らしつつも勇気を持って呟いた美琴。
別に彼女ができたからって、社内での人間関係を見直せなんて言わないし、今まで通り女性社員と仲良く会話してくれて構わない。
そしてそれは、同じ社内にいればそういった場面を見かけることもあるだろうから。
自分が恋人であること、そして恋人としての特権だけは覚えていて欲しい。
「甘えたい夜は、蒼太くんのところに行ってもいい?」
「え……っも、もちろん!」
可愛らしい事を尋ねてきた美琴に悶絶寸前の蒼太が、その体を強く抱き締めて感情を抑えるのに必死な様子。