彼女はアンフレンドリーを演じている
自分を好きになってくれただけでなく、あんなに恐れていた社内恋愛への不安も、いつもの間にか乗り越えていた美琴に。
蒼太自身も、その覚悟と重みを十分感じている。
「なあ、もう一緒に住んじゃおうよ」
「へ? いやまだ、そこまでは……」
「だって一晩で色々わかったし」
「っな、何が!」
「え〜聞きたいの〜?」
そう言って怪しい笑みを浮かべる蒼太に対し、絶対昨夜についてのいやらしいことだと察した美琴が、大きな声をあげそうになった時。
額に優しく降ってきたキスに、息を止めさせられる。
「俺の見る目は正しかったってこと」
「ッ??」
入社した時の一目惚れが全ての始まりで、どれほどの月日が経とうとも忘れることはできなかった。
そして何も行動を起こさないまま、いつの間にか恋人ができていた美琴を、彼女が幸せならそれで良いと見守る期間もあったが。
相手がクズ野郎だと知った時に、ようやく蒼太の想いが形となって覚悟に変わる。
美琴の笑顔を守れるのは、幸せにできるのは、後にも先にも自分だけだと。
「まあ同棲は追々ってことで考えといて」
「……気が早いよ」
「離れてる時間がもったいないからさ」
今まで距離を置かれることに我慢していた分、その時間を取り戻したい蒼太の想い。
それがじわりと美琴にも伝わったようで、少し考えた素振りの後に一つだけ情報提供する。
「……12月」
「え?」
「この部屋の更新月、12月なのっ」
「わ、マジで? 最高じゃん!」
蒼太の願いが思いのほか直ぐに叶いそうで、満面の笑みを浮かべて喜ぶ表情を見ていると。
やはり美琴の心は、いつまでも素直になれる予感がした。
「蒼太くん」
「?」
随分待たせてしまったけど、過去の恋愛で傷ついていた自分には必要な時間で。
こうして乗り越えられるまでの、大事な布石だったと思いたい。
だから、こんな自分に対してずっと見守り続けてくれた蒼太に。
そっと唇を寄せながら、囁いた。
「長い間、想っていてくれてありがとう」
そして、おまたせ――。