彼女はアンフレンドリーを演じている




  ***


 休日明けのランチ時間。

 話したいことがあるという美琴の連絡を受け、肌寒さを感じる中、会社近くの蕎麦屋に向かっていた遼。

 そして店の暖簾を潜った直後に、全てを察した。



「あ、遼くんこっちこっち」
「……なんか、ムカつくなその絵面」



 遼を出迎えたのは、テーブル席で隣同士に座る美琴と蒼太。
 その幸せそうなオーラを纏った同期二人の前に座ると同時に、つい辛辣な言葉を漏らしてしまうと蒼太も反撃に出た。



「恋人が出来た俺への妬みか?」
「うわ、蒼太も急に態度でかくなってるし」



 以前、同じ蕎麦屋の席にて弱音を吐いていた、意気地なしのソウタクンはどこへ?と言いかけた遼だったが。
 内心は安堵しているし、何より願っていた通りの結末を迎えた二人に嬉しさが込み上げる。



「遼くん、そういうことになりまして、今まで色々話聞いてくれてありがとう」
「本当、やっとかよって感じだな」
「ふふ、本当にね」



 そう言って自然な笑みを浮かべた美琴の表情を目にして、不意に懐かしさを覚える遼。

 入社してから同じ部署で一緒に働いていた頃の、仕事も恋愛も心から楽しんでいた美琴が蘇ったように思えたから。



「……年はとったけど」
「はい?」
「いや、こっちの話」



 そしてそんな昔の美琴を少しでも取り戻してくれたのは、紛れもなく蒼太だと言うことも理解している。
 むしろ、蒼太が適任であり蒼太にしか出来ない、とも思っていた遼にとっては、予想が的中して鼻が高い。



「で? 二人の関係は社内で秘密にすんの?」
「……社内でこの事知ってるのは、今のところ遼くんだけ」



 遼がおしぼりで手を拭いながら尋ねると、何故か渋い顔をして隣に目を向ける美琴。

 その視線の先にいる蒼太は、腕を組み真面目な声のトーンで困ったことを言い出した。



「俺は美琴ちゃんの意見に従うつもりだったんだけど、今日の午前中でよーくわかった」
「……何が」
「無理、顔に出る、既に後輩の小山には彼女出来たってバレた」
「……お前、美琴手に入ったらポンコツだな」



 めでたく美琴と恋人同士になれて、初めての出勤日だった本日。

 既に滲み出る幸せオーラは、出社早々に隣の席の小山にあっさりとバレてしまい。
 実は少し離れた席で仕事する下田にも、美琴とくっついたのだと勘付かれていた。



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