彼女はアンフレンドリーを演じている
気分的には大声で叫びながら社内を回りたいほどの蒼太も、過去の恋愛経験から慎重になる美琴のことを考えて、自制することに努めている。
ただ、この気持ちの板挟みに苦しめられている結果、中途半端に周囲を混乱させて、要らぬ噂も生み出しそうな勢い。
「話したいことって、まさかこっちがメインか」
「えと、実は、うん……」
申し訳なさそうに頷いた美琴はメニュー表で顔を隠し、遼も大きなため息を漏らした。
今日呼び出された理由が、ついに交際をスタートさせたという報告かと思いきや。
二人にとっては、社内で交際を秘密にするか否かの相談の方が重要だったらしい。
「まあ俺も、お前らを結びつけたキューピットだと自負してるからな」
「……は? きも」
「その立場から言わせてもらうと、答えは簡単」
陰ながら二人の事を応援していた遼だからこそ、二人のことをよく理解している。
だからもう、この問題の解決策は一つ。
「結婚しちゃえよ」
「は、はい!? 遼くんっそういう話じゃなくて!」
「遅かれ早かれお前らはすると俺は思ってるんだけど」
「な……っ」
「それに蒼太はどう頑張っても隠さねぇって」
いい加減な答えのように聞こえた美琴が眉根を寄せるも、頬杖をついた遼は堂々としていた。
長年美琴を想い続けて、その気持ちを隠し通してきた蒼太に、もうこれ以上の我慢を強いる事は流石に可哀想だ。
それよりもその先の未来のために、ずっと一緒にいられる道を選んだ方が二人にとっては良いと思っている遼に、黙って聞いていた蒼太も同意見で。
「やっぱ遼もそう思う?」
「ちょ、蒼太くんまで……!?」
「ていうか、そもそも蒼太は今後も美琴しか眼中にないだろ」
「そうなんだよ、だから俺的には今から役所行っても全然オッケー」
「あーあ会社の女の子達の嘆きの声が既に聞こえるぞ〜」
結婚について会話が弾んでいる男二人を、こそばゆい表情を浮かべて眺めることしかできない美琴。
まだ始まったばかりと思っていた二人の恋人関係が、蒼太の中では自分との結婚がとっくに視野に入っている事を知り、徐々に頬を赤らめていく。
「(結婚、蒼太くんと……)」
そして、そんな未来を想像すると今の問題がとても些細なことに思えてしまい。
ようやく空腹を感じた美琴は、静かにメニュー表を開いた。