彼女はアンフレンドリーを演じている




 新卒入社して一年が経ち、同じ部署で7つ年上の先輩、長屋(ながや)の仕事ぶりがかっこよくて、気付けば好きになっていた。


 しかし業務で関わることがなく、何か共通点はないかと考えた若き美琴は、長屋と共に煙草休憩に向かう同期の遼の姿を見てピンとくる。


 自分も喫煙者になって偶然を装い休憩に行けば、喫煙所で先輩に挨拶できると。

 それが読み通りになり、徐々に長屋と話す機会が増え仲を深めていき五ヶ月が経った頃。


 どちらからともなく、求め合うようにホテルに行った日は、今でも忘れる事ができない。


 そしてこれを機に、真剣交際が始まるんだと思って一ヶ月が経った時――。


 実は結婚を控えた女性がいて、自分はただの独身最後の遊び相手だったと言うのを知った日のことも、忘れていない。



 まさかそんな非道徳的な出来事が、社内で起こるなんて思ってもみなくて。

 突然真実を告げられ捨てられたあの日から、愛というものを信じられず人と関わることも怖くなってしまった。


 だから自分に向けられる好意を察知すると、嫌われようと冷たく接するようになり。
 女性社員の恋バナで社内の男性の名前が聞こえてきたら、その人と関わってはいけないと心得る癖がついた。


 とにかく社内での色恋沙汰に関わらないようにしていくうちに、いつの間にか冷淡で無愛想な人だと認識されている現在。


 入社当初は温厚で優しく、積極的で明るい女性だったはずの美琴は、今や社内で笑顔を見せることはなく完全に心を閉ざしてしまった。


 美琴にとって社内恋愛は、もう二度と繰り返してはいけない過ちだったから。



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