彼女はアンフレンドリーを演じている
「蒼太くんには感謝してる、部署に居づらかった私に異動の提案してくれて、人脈使って動いてくれた」
「まあ、いくらなんでも最低でクズ人間の長屋と同じ部署って、息苦しいだけだろ」
それが自分よりキャリアが上の男なら尚更、と美琴の心情に寄り添っていた当時の蒼太。
思い出すだけでも腹立たしい先輩の長屋を、呼び捨てかつクズ呼ばわりするのは、ここが社外であり蒼太が酒を摂取したから。
「そうだけど、別れる事を想定していたら、やっぱり社内恋愛なんてするべきじゃなかったんだよ」
「それは、たまたま最初が悪い奴に当たっただけで……」
「長屋さんとの交際を隠していたから、遼くんをはじめ他の社員には知られずに済んだけど」
そう言って思い出すのは。
交際していたつもりの期間中、美琴と長屋が手を繋いでホテルから出てきたところを、たまたま通りかかった同期の蒼太に目撃された場面。
言い逃れのできない状況に二人は焦っていたが、その時の蒼太は何も聞いてこなかったし、普段通りに挨拶して立ち去った。
しかしその翌日、長屋に呼び出された美琴は、真実を告げられ捨てられる。
「今日までずっと、秘密にしてくれてることにも感謝してる」
「なんだよ改まって……」
「蒼太くんには、いっぱい迷惑かけたから」
だからこれ以上の迷惑をかけないためにも、もう――。
「会社で私に関わると蒼太くんの評判まで悪くなるかもしれない」
「……は?」
「だからもう、気にかけたり声かけたりしなくて、大丈夫だよ」
わざわざデスクまできて戦略資料について指摘しなくても、メールで十分やり取りできる。
休憩スペースでバッタリ遭遇しても、気を遣って立ち話なんてしなくていい。
蒼太の社内での立場を案じて、今までの感謝と今後の関係性を改めようと提案を始めてきた美琴。
「元々一人でいるの好きだし、仕事自体も好きだから退職はもう考えてな……」
「……、……だよ」
「蒼太くん?」
しかしそれは、蒼太にとっては酷な提案である事を、やはり美琴は知らないのだ。