彼女はアンフレンドリーを演じている
「あ、香上さん見てください。あの冴木さんが男性と話してます」
「は……?」
同じく社員食堂のテーブル席で定食を食べていた蒼太と小山が、窓際のカウンター席でコソコソと会話する、美琴と遼を発見していた。
内容までは聞こえなくても、遼の話に押され気味だった美琴が、いつの間にか良いテンポでやりとりをしていて。
「隣にいるのは同期の人ですか?」
「……うん、俺も知ってる奴」
「そっかぁ、だからあんなふうに話せるんですね〜」
あんなふうとは一体?と、小山が何を思ってそう言ったのかはわからないが。
自分の時よりもたっぷり時間を使い、かつ普段よりリラックスしている美琴の口数が多いことは、蒼太自身も気付いていた。
やがて遼が席を立ち食堂を出ていった後も、小山の興味は美琴に向いていて、ため息をつく。
「俺もいつか、冴木さんと仲良く会話しながら仕事出来る日が来ますかねぇ……」
「…………」
「香上さん?」
「あ? まあ、ん〜まだまだだと思う」
「で、ですよねー」
一瞬、聞き流されたと思った小山の問いかけは、しっかりと蒼太に届いていた。
ただその答えは、シンプルな割りに少し遅れて返されたので。
きっと定食についてきた味噌汁が、思いのほか熱かったのかな?と、要らぬ心配をした。
「あ、お水入れてきます!」
「……ああ、ありがとう」
蒼太のコップを預かり、飲み水を入れに向かった小山の背中を見送ると。
もう一度だけ、今度は切なげな視線を美琴へと静かに向けた。
遼が去ってからは、特に変わった様子もなく黙々と食事を進めている。
「…………」
本当は今すぐ美琴に駆け寄って、どんな話をしていたのか聞き出したい。
しかしこんな、大勢の社員で賑わう食堂の中を業務でもない会話をしに行けば、美琴は確実に嫌な表情をするだろう。
二人の会話もその距離も気がかりで、だけど決して顔色には出さない蒼太は。
その後、あまり食事が喉を通らなくなった。