彼女はアンフレンドリーを演じている




 そうして迎えた金曜日。

 今日は朝から何事もなく、平和な日を送る美琴の仕事ぶりは、夕方になっても相変わらず無駄がなくて。

 畑野のシュレッダー事件で粉砕された分も、蒼太が手伝ってくれたおかげと、次の日は課長と手分けして作業した甲斐もあり。
 予定よりも早い、昨日のうちに無事完成させることができた。


 しかしそのタイミングで、突然畑野が課長のデスクで謝罪をしている。



「本当にすみませんでした……」
「うん、わかったよ。冴木さんにもちゃんと伝えておいで」
「……はい」



 そう言って今度は、美琴のデスクの方に向かってくる畑野。
 目を腫らして眉毛は下がり、いつもの若々しく活発な雰囲気はそこになかった。



「冴木さん」
「……はい?」
「C社の売上データの件、あたしのミスなのに冴木さんに押し付けて、本当にすみませんでした」
「え……え? ああ、もう終わった事ですし、私もしっかり指示できていなくて」
「いいえ、指示はしっかりくれていました。あたしの確認不足なんです」
「…………」



 どういう心変わりがあったのかわからないが、畑野が自分のミスを認めて頭を下げている。

 いきなりのことで戸惑う美琴は、そんな畑野と自分の心情を重ねて優しい言葉をかけた。



「自分の間違った行為を認めるって、すごく怖いし勇気がいることだと思います」
「え……?」
「だから畑野さんは、もう大丈夫ですね」



 人と関わる事から逃げて、保身に走る自分よりもずっと大人で強い心を持っている気がしたから。
 素直になれる畑野を、少し羨ましいと感じた美琴。



「畑野さんを見習って、私も頑張ります」



 すると、褒められているというのに、照れるどころか何故か青ざめて表情がぎこちなくなる畑野は、ブツブツと小声を漏らす。



「いや、認めるというか……言わされてるというか……」
「え?」
「あ、何でもないです、バレたらやばいんで」
「??」



 軽く会釈すると、美琴の顔を見ることなく慌てて自席に戻った畑野。
 そして、デスクに突っ伏すと大きなため息と共に、昨日の退勤時の出来事を思い出した。



< 34 / 131 >

この作品をシェア

pagetop