彼女はアンフレンドリーを演じている
いつものように定時で上がった昨日の畑野は、セキュリティゲートを通ったところで、初めて声をかけられる。
「畑野さん」
「え……え!? 香上さん!?」
振り返った先には、外回りから戻ってきたにもかかわらず涼しい顔した蒼太と、汗を滲ませ疲れ切った小山が並んで立っていた。
どうして香上さんがあたしに?と、意外すぎる人物に呼び止められて困惑する畑野。
すると蒼太は小山に対して「先に戻ってて」と指示を出し、畑野と二人きりにしてもらう。
「ごめんね、今ちょっと話できます?」
「は、はい! もちろんです……!」
他部署で新入社員の畑野でさえ、蒼太の評判は耳にしていて、話したことがなくても一方的に顔と名前は知っていた。
それがまさか、自分も知られていたなんてと、頬を赤く染めながら感動を覚え始める。
話とは一体なんだろう、と期待に胸を膨らませていると、蒼太の爽やかな笑顔が強みを増した。
「君、先輩にミス押し付けたんだって?」
「…………え」
表情とは全く真逆の、冷たく棘のあるセリフに畑野の体が一瞬にして強張った。
しかもそれは、身に覚えのある話で、自分にとっては不利な内容。
「この前たまたま会話が聞こえて、部署は違うけど俺も一応君たちの先輩だから、放置できないなぁって」
「あ、あれは、えと、先輩の指示が、よくわかっていなくて……」
先日、休憩スペースで同期と集まった時の会話を聞かれていたんだ、と直ぐにピンときた畑野。
だけど、本当は自分のミスであるという事実は思い出せるのに、何がどうなってミスになったという言い訳の部分は、もうすでに曖昧になっていた。
「じゃあ、先輩の指示が……悪かったのかな?」
そう言って畑野と距離を詰めた蒼太からは、いつも社内で振り撒く爽やかな笑顔が消えていて。
代わりに冷ややかな瞳と軽蔑的な視線、そして無表情なのに威圧感が漂う表情が浮かび上がっている。