彼女はアンフレンドリーを演じている
終業時刻を迎えパソコンの電源を切った美琴は、早々に部署を出ていった。
今日はこれから、遼の付き合いで合コンがある上に、見返りとしてリクエストしていた晴雨兼用の折り畳み傘が手に入る。
面倒な気持ちと楽しみな気持ちが半々の中、エレベーターを待つ社員に混じって立っていると。
「美琴ちゃんだ」
「蒼……香上くん」
仕事を終えた蒼太と顔を合わせることになり、一瞬心臓が跳ねた美琴。
残って仕事を手伝ってくれたあの日以降、社内で蒼太を見かけると毎回心臓が驚いたように跳ねてしまう。
ただそれは直ぐに治まって、継続的な鼓動にはならないのだが。
またいつ、あの時のように鼓動が鳴り続けてしまうか不安だった美琴は、今日も蒼太に無愛想な態度をとった。
「残業続いてたから、今日くらい早く帰りたいよな」
「……そうですね」
「って俺はこれから部署の飲み会なんだけど」
「楽しんできてください」
本当は自分も飲み会という名の合コンを予定していたが、そんな情報は求められていないし、言う必要はないと考えている美琴。
その時、エレベーターが到着して社員を次々と乗せていき、流れに乗った美琴と蒼太は、必然的にどんどん奥に追いやられてしまった。
「大丈夫?」
「あ、はい……」
壁際に美琴を置き、それを守るように立つ蒼太。
今までにないほどの至近距離に、顔を見て会話ができなくなった美琴は、すっと横に首を逸らす。
すると、揺れた髪の隙間からちらりと姿を現したのは、普段しているところを見たことない、パールピアス。
その瞬間、蒼太の中で嫌な感情が込み上げたのを、美琴は気づくわけもなく。
二人を乗せた混雑するエレベーターは、ゆっくりと降下してようやく一階に到着した。
扉前にいた社員がぞろぞろと降りていき、美琴と蒼太も無言でそれに続く。
セキュリティゲートを抜けて会社を出ると、まだまだ外は暑くて汗ばんできた。
これから蒼太は会社の飲み会に、そして美琴は打ち明けるつもりの一切ない、合コンが開催される店へと向かう。