彼女はアンフレンドリーを演じている
「じゃ、お疲……」
「デート?」
ここでお別れのつもりが、突然声をかけてきた蒼太。
それも、明らかにプライベートな内容の質問に、美琴も驚いている。
「……いきなり何?」
「いつもしてないピアスなんかして、これからどっか行くんだろ?」
「ちょ……香上くんっ」
会社を出たばかりで周りの目が気になる美琴は、二人の仲を疑われる行動は慎もうと必死に視線で訴えた。
しかしそれを汲み取ろうともしない蒼太は、何故か不機嫌な表情を美琴に向けて、更に問い詰める。
「そんなに楽しみなんだ」
「はぁ?」
「俺と飲む時とは大違いだな」
「っ!」
初めて顔を合わせる人達に対し、いつも通りじゃ失礼かと思った美琴のささやかな着飾りが、蒼太を不快にしたらしい。
そもそも、蒼太が飲みに誘う時なんていつも急で、そんなこと一切求められていないはずなのに。
どうして今になってそんなことを言い出すのか、蒼太の言動が理解できないし、納得いかなかった。
「……違って、当然です」
「……」
「香上さんの言う通り、今日はデートですから」
だからつい、美琴も嘘という武器をかざしてしまい、重苦しい空気が漂って。
沈黙する蒼太をその場に残したまま、駅前に向かって歩き始めた。
「(……何なの、腹立つ……)」
遼のお願いとはいえ、誰のせいで行きたくもない合コンに行くことを決めたと思ってるんだ!と、憤りが収まらない。
一緒に残業したあの日に味わったのは、孤独感だけでなく、好きになってしまいそうな危機感の方が大きくなった。
もしかしてこの鼓動は、蒼太に反応して鳴り続けているのだとしたら。
一緒に過ごす時間が他より長いせい、偏った人付き合いのせい。
それは錯覚なんだと言い聞かせるのに必死で。
だから、それを証明するためにも、社外の男性との出会いを増やし、蒼太以外に目を向ける必要があると思った。
「(……違う、全部自分のせいなのに……)」
二度と社内で恋愛しないと決めた美琴が、勝手に蒼太を好きになりそうだと錯覚して、勝手に遠ざけて。
そして今、勝手に出会いを求めてるだけ。
一瞬でも蒼太のせいにしたことを反省したが、もう後には引けない美琴は、もうすぐ遼と合流する時間を迎えようとしていた。