彼女はアンフレンドリーを演じている
「今日、何でくる気になった?」
「……心境の、変化」
「へぇ、合コンしたくなる心境の変化ってなんだろなー?」
疑問形にしながらも、すなわち恋愛に関する心境の変化ですね?と、遼の顔に書かれていてそれが無性に腹立たしい。
でもそれは間違いではなく、かといってさっきのように連絡先を聞かれたら困ってしまう自分の事も、遼には見透かされているのだろう。
もう隠したって何にもならないとわかっている美琴が、頬杖をついて話し始めた。
「今、自分の気持ちにブレーキかけてて」
「ブレーキ? 何で?」
「その先に進んじゃ、ダメだから」
「え、何で進んじゃダメなの?」
「それは……」
また社内の人を好きになりかけているから、という説明は、何も知らない遼にはできない。
遼の先輩でもある長屋と、同期の美琴が過去に交際していて、最悪の終わり方をしたのが事の発端。
それ以降、社内恋愛はしないと決めた美琴の事情を知るのは、今の今まで蒼太だけ。
「まさか好きになった奴が既婚者とか」
「ちちち違う!」
「はー良かった、やめろよ修羅場に突っ込んでいくの」
「私だってやだよ」
そんな分かりきった修羅場の道には、絶対進みたくない。
だから蒼太への気持ちにブレーキをかけるのも、過去の記憶と経験が、その先に進むのを拒んでいるから。
「今ならまだ間に合う、気持ちに気づかなかったことにできるの」
「ふーん、美琴はそれでいいんだ?」
「うん……」
俯く美琴を見つめる遼が何か言いたげな視線を送るも、ここで余計なことを言ってしまったら更に混乱を招くとして、我慢した。
ただ、美琴がそこまで悩む相手が社内の人間か社外の人間かは不明だとしても。
少なくとも社内に一人、美琴へ想いを寄せている人物がいることを知っていた遼は、その男を急かす必要性を感じた。
「(ま、蒼太は俺のこと勝手にライバル視してるけど)」
蒼太が何故、美琴に対して見守るような選択をしているかはわからないが。
そうやって真面目な男を演じているだけでは、何にも成し得ないことぐらいわかっているくせに。
と、遼は深いため息をついた。