彼女はアンフレンドリーを演じている
夜の9時頃にようやくお開きとなった合コンは、続いて二次会のカラオケに向かう話が持ち上がっている。
まだまだ飲み足りないみんなが二次会も全員参加かと思いきや、美琴はここで帰ると宣言したので、遼も同じく二次会を断った。
そうしてみんなを見送った後、その場に二人だけが残されて、しんと静まり返り生温い夏の夜風が吹く。
「遼くん、カラオケ行けば良かったのに」
「いい、付き合ってもらったお前が帰るのに俺だけ行く訳ねぇだろ」
「そういうものなの?」
「おー」
混雑する歩道を駅方面に並んで歩きながら、普段と変わらない会話を続けているうちに、やっと緊張がほぐれてきた美琴。
知らない人との会話も楽しいけれど、やはり自分には慣れ親しんだ人との方が、素を出せるし気楽だと改めて感じた時。
「ほら、見返りの品」
「わ、ありがとう! わざわざ包装頼んだの?」
「一応贈り物だから」
「さすがだね、開けていい?」
「うん」
紙袋を渡されて、遠慮する事なく受け取った美琴は、今日一番の笑顔を咲かせて喜んでいた。
そしてその場で中に入っていた箱を開けると、リクエスト通りの晴雨兼用の折り畳み傘が視界に映る。
「そうこれこれ、画像送っておいて良かった」
「そんなんで良かったのか?」
「うん、使ってた日傘壊れちゃったから」
もっと値の張る見返り品を求められるかと思ったら、あまりに良心的で拍子抜けしていた遼。
だから今夜、合コンに付き合ってくれた御礼をもう少しだけプラスしたくて。
「美琴、家どこだっけ」
「ここから8駅先」
「送るわ」
「え、いいよまだ9時だよ」
駅前の広場に到着すると、さすがは金曜日の夜だけあって、まだまだたくさんの人で溢れている。
蒼太との飲みの時は、居酒屋が美琴の自宅近くのため毎回送ってもらっていたが。
わざわざ電車に乗ってまで、とやんわり断った。
「んーわかった、じゃあせめて改札口までな」
「ありがと、ところで」
「ん?」
「さっき、女の子と連絡先交換してるの見ちゃった」
「あ、わかった? あの子めっちゃ胸大き」
「最低、さよなら」
と言いながらも、遼に素敵な出会いがあったなら良かったと思っている美琴は、自然と笑顔を浮かべていて。
何だか同じ部署にいた頃の美琴に戻ったみたいだなぁと、遼も安心して微笑んだ。