彼女はアンフレンドリーを演じている
「おーい香上くーん!」
「っあ……、はい」
「どうしたの? 知り合いでもいた?」
駅前広場の人混みを離れたところから見つめている蒼太に、ほろ酔いの主任が優しく声をかけた。
こちらの飲み会も終わったばかりで、二次会もなくお開きとはなったが、まだまだ飲み足りない若い社員達は、各自で次の店をどこにしようか話し合っている。
「いえ……カップルが多いなぁって眺めてました」
「あはは本当だ、金曜日だからね〜羨ましいね」
「主任は奥さんいるでしょう」
「そうなんです、とっても可愛い妻が。だから早く帰らないと、お疲れ様〜!」
「お疲れ様でした」
営業部の仏的存在の主任は、一足先に駅へと向かって奥さんの待つ自宅へと帰っていく。
幸せそうな主任の背中を見送りながら、蒼太の頭の中では先程見てしまった現実が、何度も繰り返し再生されていた。
“今日はデートですから”
最後にそう言って別れた美琴が一緒にいたのは自分も良く知る同期の遼で。
しかもプレゼントらしき物を渡された時に、とびきりの嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
自分には決して見せてくれない表情を、遼には簡単にさらけ出せる美琴は、やはり遼に惹かれてるのだろうか。
「(社内恋愛は、もうしないんじゃなかったのかよ……)」
その言葉だけを信じて、ずっと真面目に美琴の気持ちの変化を待っていた自分が、何だか馬鹿馬鹿しく思えてきた蒼太。
拳を握り、湧き上がる喪失感と怒りに耐えていると、背後から後輩の小山と女性社員の下田がやってくる。
「香上さんは次行きますか?」
「……いや、気分的に今日はもう……」
酒に逃げて飲み明かすより、早く帰って不貞寝したい気分だった蒼太は、二次会を断ろうとしたのだが。
突然、その腕を絡めとってきた下田が、上目遣いで懇願してきた。