彼女はアンフレンドリーを演じている
「行きましょうよ〜香上さんがいないとつまんないです!」
「…………」
こういうノリの女性が苦手な蒼太も、いつもなら軽く笑みを浮かべて上手くかわすのに、今はそんな気にもなれずに無気力な目線を向けた。
アルコール摂取したせいか、普段の爽やかで男前な姿とは少し異なり、力の入らない瞼が色気を放出していて。
思わず下田の下心が「今夜はイケる」と思い込む。
「俺も香上さんとまだまだ飲みたいです!」
「小山もこう言っていますし、行きましょう〜!」
小山も一緒になって蒼太を誘い、半ば強引に次の店へと続く道を歩かされる。
酔いも覚ましてくれない生温い夏の夜風は、蒼太の築き上げてきた、美琴への想いと葛藤を、徐々に崩していった。
「あの、香上さん」
「ん?」
小山を前に歩かせ少し距離が出来たところで、未だに腕を組む下田が蒼太にこっそりと声をかける。
「私、香上さんのこと、実は前から良いなぁって思ってて」
「……どういうことですか」
「男性として、良いなぁと」
「そういう事なら気持ちは受け取れな」
「もし今彼女がいないなら……私どうですか?」
「どうって……」
そんな簡単に選んで良いような話ではないのに、下田の目は真剣そのもので。
きっと、当時の美琴もこんな真っ直ぐな気持ちで長屋を想っていたのだと思ったら、やっぱり妬けてきてしまう蒼太。
長屋のせいですっかり拗れた美琴の性格と社内恋愛への恐怖心は、自分が待っているだけでは何の変化もなく。
だけどこの短期間で、遼にはあっさりと抜かされた。
「今夜、一度だけでも良いんです……」
「……何言って」
「彼女になれなくても、思い出だけ作ってくれたら私……」
「……」
それでも蒼太を必要としてくれる人が直ぐそばにいて、何やらワンナイトでも良いからと強く誘惑されていることはわかる。
美琴への想いが叶わないなら、いっそ……。
そんなふうに考え始めた蒼太が、腕に絡みつく下田の手に、自身の手のひらを優しく重ねた。