彼女はアンフレンドリーを演じている
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不発に終わった合コンから一週間は経ったと思うが、その間の違和感はやはり気のせいではないようだった。
テキパキとキーボードを打ちパソコン画面を凝視する美琴が、ふと視線を上げる。
すると、向かいの席には同じ課の山本という男性の先輩が仕事をしていて。
その山本を訪ねてやって来たのは、資料作成をお願いしていた営業部の蒼太。
「山本さん、ここに前年比のグラフを追加したくて」
「あー、あった方が説明しやすいね」
「そうなんです、お願いできますか?」
「もちろん、すぐできるよ」
「ありがとうございます」
笑顔を交えながら、和やかに業務の会話をしている二人。
一見、普段通りの光景ではあったが、美琴にしか気づく事ない違和感は継続していて。
やがて会話を終えて自分の部署に戻ろうとする蒼太は、一度たりともこちらに視線を向けなかったのだ。
「…………。」
いつもなら、アイコンタクト程度で済む時もあれば、わざわざ声をかけてくることだってある。
しかしここ数日、いや一週間前の退勤後に別れて以降。
蒼太と目が合う事も、声をかけられる事も無くなった。
「(というか、避けられている)」
先週の険悪な雰囲気を考えれば、それも仕方ないと思っている美琴は。
遠ざかっていく蒼太の背中をしばらく眺めた後、視線を伏せて仕事に戻った。
「…………」
部署を出ていく僅かな瞬間に、美琴へ目を配った蒼太に気づく事もなく。
また蒼太も、いつもと変わらず仕事に集中する美琴に対して、心の中では落胆していた。
「(相変わらず俺って……)」
気にも留まらない、眼中にないと散々示されているのに、習慣のように視線が向いてしまう。
意識をすれば避けられることが、無意識下では避けられなくて。
だけど、美琴の視線はやはり自分に向いていないことがわかると、また勝手に傷つく蒼太。
「はぁ……きも」
自分がこんなに未練がましく、腰抜け野郎だったとは思ってもみなかったが。
それを認めざるを得ないこの状況を、蒼太は自嘲するしかなかった。