彼女はアンフレンドリーを演じている
06. イジワルもするタイプ
あれから数日経過したある日。
相変わらず蒼太と一切関わりを持てなくなった美琴が、普段より仕事のスピードを落としている午前10時。
「失礼します」
突然部署に現れた蒼太の姿を見て、女性社員がワッと笑顔を咲かせる中、美琴の心臓も久々に躍った。
しかし蒼太は真っ直ぐに課長のデスクに向かって、なにやら大事な会話をしている様子。
すると――。
「冴木さん」
「えっ、はい……」
課長に呼び出され、慌てて返事をした美琴がデスクに向かって隣に立つも、蒼太は表情ひとつ変えなかった。
「小山くんに渡したキャンペーンの企画書、香上くんに元データ送ってくれる?」
「え……はい、わかりました」
その程度の用事、以前は直接伝えにきていたのに、今では課長を通して話される。
平然と前を見据える蒼太に、美琴の気分は更に落ち込んだ。
無理矢理キスしておいて、勝手に気まずくしておいて、未だに心を乱されているのは自分だけという状況に。
やるせない思いが徐々に湧く。
「それが小山くん、今朝アパートの階段から滑り落ちたらしく」
「え……え!?」
「今病院で治療中みたい」
「……大丈夫なんですか? だって今日……」
キャンペーンの企画書を作成した美琴は、本日小山がそれを持って補佐役の蒼太と共に、一泊の出張に向かうことを知っていたから。
この時間まで病院で治療中ということは、直ぐに帰宅するのは難しいほどの怪我の具合なんだと想像できる。
「残念ながら小山くんは出張行けないから、香上くん一人で向かうんだって」
「っ……」
今回の出張は小山がメインで、蒼太はサポートとして付き添う程度であると聞いていた。
でも、共に方向性を考え企画書を作成した自分と小山よりは、きっと不明なところも多いだろう。
そう考えた美琴は、気づけば柄にもないことを口にしていた。