彼女はアンフレンドリーを演じている
蒼太を残したまま焼き鳥店を出てきた美琴は、宣言通り買い物中であった。
「なんなのよ、あれは……」
すでに一軒目のお店で、着替え用のブラウスとタイトスカート、そして下着を購入していて、その肩からは大きな紙袋がぶら下がっている。
続く二軒目は、駅前にある看板が派手に輝くドラッグストアを訪れ。
今、メイク落としシートと旅行用のスキンケアセットを、カゴに収めたところだった。
すると不意に、先ほど蒼太が放った一語一句に翻弄される自分を思い出して、カッと赤面してしまう。
「(全然、反省してないじゃん……!)」
会議室での出来事を、深く反省しているからこそ顔向け出来ないのだと思っていたら、一緒に仕事をしているうちに以前のような関係に自然と戻って。
そこまでは良いとしても、これからは隙を見せたら手出しすると宣言され、目眩を起こしそうになった。
「(隙を見せたら……って)」
それはつまり、蒼太への警戒心や防御を解いたと判断された時には、迷う事なくキスを、いやそれ以上もする予定であるということなのだろうか。
未だに残る、あの時の唇の感触を、あれっきりでは終わらない予感がして。
胸騒ぎを覚えた美琴は、自分の気持ち次第で蒼太との関係が大きく変化するという緊張感を、芽吹かせてしまった。
と同時に、三年振りに味わうこの高揚感は、紛れもなく恋であり、そのお相手は間違いなく蒼太であるということも――。
「……ああ、もう……」
自覚した途端に、蒼太が恋しくて仕方ない反面。
社内で男女交際をするリスクと不安を乗り越えたわけではなくて、次の段階に進むことを躊躇している。
ただ、元々全ての事情を知っていた蒼太ならきっと、そういった苦悩も理解してくれる気がしたから。
僅かな安心感もあり、複雑な心境を抱えていた美琴は、とりあえず商品で溢れたカゴを持ち、急いで会計へと進むことにした。