彼女はアンフレンドリーを演じている
買い物に意外と時間がかかってしまい、宿泊ホテルに到着したのが夜の9時頃になった。
既にチェックインを済ませているであろう蒼太は、今頃部屋でのんびりくつろいでいてもいい時間。
自分ももうすぐ部屋でゆっくりできると思ったら、急に空腹感に襲われ始めた美琴は。
今更焼き鳥とたこわさを食べ損ねた後悔をしつつ、フロントのスタッフからカードキーを受け取った。
「お弁当買いに行く元気はもうないな〜……」
だから空腹は気のせいと言い聞かせてエレベーターに乗り込むと、カバンの中のスマホが突然メッセージを受信する。
「え、蒼太くん……?」
差出人を画面で確認した美琴が、目的の階に到着したエレベーターから降りると、そっとメッセージを開く。
『無事チェックインできた?』
その文面からは、美琴を心配するような蒼太の心情が読み取れて、店に置いて出て行った事は怒っていないようだと少し安心した。
加えて、飲みの誘い以外のメッセージのやりとりが実は初めてだったせいか、くすぐったい感覚を抱えつつすぐに返信する。
「できました……送信、と」
部屋が別々の蒼太とは本日中に会うことがないから、就寝するまでに明日のスケジュールを確認しておかないといけない。
そう考えながら、一旦カバンの中にスマホをしまった美琴は、本日お世話になる部屋の前に到着するとカードキーを翳した。
――ガチャ。
至ってシンプルなシングルルームに究極の居心地の良さを覚え、クローゼットに荷物を置いた途端そのままベッドに倒れ込む。
「疲れたー!」
いつも以上に歩いた足は鉛のように重く、せっかく買ったメイク落としシートも、このまま使うことなく寝落ちてしまいそう。
それほどまでにどっと疲労感が押し寄せてきた美琴のスマホが、再び震えた。
『部屋番号教えて』
え、何故?といった顔を浮かべ、さっきまでの疲労感が吹き飛ばされた美琴は、ベッドの上で無意識に正座してしまう。
「経費申請のため? いや違う、まさかこっちの部屋くる気……?」
部屋番号を尋ねる意図がわからなくて、一人あたふたしていると。
既読がついたのに返信が来ないことを察した蒼太が、続けてメッセージを送ってくる。