彼女はアンフレンドリーを演じている
『お金返す、さっきの三千は多すぎ』
『あ、わかりました。505号室です』
『やっぱ隣だ、10分後行くわ』
またしても早とちりをしたらしい美琴は、それを悟られないように蒼太のメッセージに即返信した。
そして送ってすぐ、その場に突っ伏す。
焼き鳥屋では隙を見せたら手を出すなんて言っておいて、今度はまともな理由でメッセージを送ってくる。
そんな蒼太にいちいち振り回されている気がした美琴は、一体自分がどっちを望んでいるのかもわからなくて。
蒼太が来るまでの10分の間に、この慌ただしい心臓と真っ赤な顔をどうにかせねば、と焦っていた。
――コンコン。
やがてドアからノック音が聞こえてゆっくり扉を開くと、先ほどまでのスーツ姿から一転、ラフな私服に身を包む蒼太が立っていた。
普段は額をオープンにして整えられている髪も、まるでシャワー後のように下ろされていて、それがとてつもなく新鮮。
「え、若返って見える……」
「第一声がそれかよ」
「ごめん、いい意味で、だよ」
初めて見た蒼太の飾らない姿に、謝りつつも自然と表情が和らいだ美琴。
それは親近感というよりも、好きな人の意外な一面にも好感を持てたような感覚で、嬉しい感情の方が正解な気もする。
そんな美琴の様子に、少し拗ねたような反応をしていた蒼太も、満更でもない表情に変化しながら三千円を差し出した。
「あの後俺もすぐ店出たから」
「そっか。でも私ビール飲んだし他の注文だって」
「いいって、とにかくこれは全額返す」
「……わかった」
渋々納得した美琴が返金された札を受け取った瞬間、ぐぅ〜と腹の虫が小さく鳴った。
それは自分では気づいても、蒼太の耳には聞こえるほどでもない音量だと思って安心していたのも束の間。
「腹減ってんだ?」
「!!……え、聞こえ……!?」
「この静けさで聞こえないわけないだろ」
「っ……!!」
ホテルの廊下の静けさを本日だけは憎んだ美琴は、恥ずかしさから頬を赤くしてドアを閉めようとしたが。
突然ドアに手をかけてきた蒼太に退散を阻まれた。