彼女はアンフレンドリーを演じている
返金はもう済んだはずなのに、ドアを閉めさせてくれない蒼太と、閉めたい美琴が目を合わせる。
このまま押し入られたら、どうすることもできないという状況。
もしかして隙を見せてしまったのかと焦り始めた美琴は、一気に鼓動を加速させた。
すると、目の前に突然現れたのは、ホテルと直結している一階のコンビニ袋。
「と思って、弁当買ってきてやった」
「……へ?」
焼き鳥を食べていない美琴のためを思って、わざわざ弁当を買ってきてくれた蒼太。
腹の虫を聞かれたことは恥ずかしいが、袋の中のお茶と食欲を唆るカルビ弁当を見た美琴は、思わず心を奪われる。
「ありがと、助かります……あ、お金っ」
「あーいらないいらない」
「だめだよ、サシ飲みだっていつもちゃんと割り勘にしてきたんだから」
コンビニ弁当を受け取って、先ほど返金された三千円のうちの一枚を抜き出そうとした時。
蒼太は一歩前に出て部屋内に片足を侵入させると、札を取り出す美琴の手をぎゅっと握った。
「俺、好きな女には何でもしてあげたいタイプだから」
「っえ……え!?」
「今までだって望まない割り勘だったの、いい加減気づいて」
ニヤリと口角を上げる蒼太の顔が至近距離に浮かび上がって、言葉を失い固まる美琴。
好きな女とは、即ち自分のことであると気付くのにそう時間はかからなかったが。
慣れない蒼太からの甘すぎる言葉と扱いに、正直頭が追い付かない。
「わわ、わかった……けど、手を……」
「離して欲しい?」
「……うん」
「どーすっかなー」
「っ……イジワルもするタイプなんだ」
明らかに揶揄われて、眉根を寄せながらいじけた美琴。
すると今度は、無邪気な笑顔を浮かべた蒼太が、名残惜しそうに握っていた手を離した代わりに――。
「隙、見せまくりじゃん」
「はい!?」
美琴の耳元へ唇を寄せて、含みを持たせたセリフを囁いた蒼太は。
その後、余裕の微笑みを残して「おやすみ」と手を振り、隣の部屋へと戻っていった。
「っ〜〜!!」
今の距離なら、キスをされてもおかしくなかったのに、耳打ちだけに留めたのは何故……?
そんな事を考えてしまった美琴は、ドアが閉じたと同時にその場にへたれこみ。
今夜は眠れそうにない、と予想した。