彼女はアンフレンドリーを演じている
07. あくまで厚意
翌日、宿泊プラン内に含まれるレストランの朝食を、チェックアウト前に一緒に食べようと約束していた二人。
時間に少し余裕を持ってロビーへ向かった美琴は、宿泊客で賑わっているフロントを横切ると。
見覚えのあるスーツ姿の人物が、待合のソファに腰掛けているのを発見する。
「(蒼太くん、もう来てた……?)」
待たせていたかもしれない焦りから、美琴が少し駆け足になった時。
突然、二人組の女性が蒼太の下へ歩み寄り、何か会話している様子が窺えた。
「(知り合い? 出張先で?)」
離れたところから眺めていると、話の内容はわからないが蒼太が首を横に振り、やがて二人組はその場から退散する。
そして美琴がいる方へと歩いてきて、すれ違う時に聞こえた会話は。
「現地の人じゃなかったね」
「道案内作戦失敗かー」
「でも顔も断り方もカッコよかった!」
「名刺欲しかったね」
どうやら旅行中の二人組は男前の蒼太を見つけ、道を尋ねるフリして仲良くなる作戦を実行したが、現地の人間ではないと丁重に断られたらしい。
ただ、それでも好印象を与えたということは、やはりコミュニケーション能力が高くて、社外にいても女性の目を引くルックスなのだと納得する。
すると物音すら立てていないのに、後頭部に目があるかのように振り向いた蒼太は、爽やかな笑顔をこちらに送った。
「美琴ちゃんおはよ」
「……おはよう」
「あれ、どうした?」
朝一番の美琴の様子は、元気がないだけでなく、目の充血と隈を携えていて不思議そうに尋ねる蒼太。
そんなにわかりやすいのかと顔を背けた美琴は、答えないままレストランへ向かい、その後を蒼太も追う。
「寝不足? お化けでも出た?」
「んなわけ……ないでしょ」
「一人で眠れないって連絡くれれば添い寝しに行ったよ、すぐ隣だったのに」
「なっ、一体誰のせいで眠れなかったと……!」
要らぬことを口走った、と思った頃にはもう遅く。
美琴の言葉を聞いて一瞬驚くも、直ぐに嬉しそうな笑みを浮かべた蒼太が憎らしい。
「……へぇ、俺のせいか」
「っ蒼太くんとは言ってな」
「なるほどねー、うんうん」
「ちょ……」
歩くのをやめた美琴を追い抜いて、レストランへと入っていく蒼太の足取りは軽く、何だか上機嫌なのも後ろ姿から伝わって、何も言い返せなくなった。