彼女はアンフレンドリーを演じている
自分の言動一つ一つに、機嫌を損ねてヤケになったり、嬉しそうに微笑んだりしている蒼太を見ていると。
美琴も大概、蒼太を振り回しているのかもしれないと、少しだけ考えて自覚するようにはなった。
バイキング形式の朝食で食べたい品を皿に盛り付け終えた二人は、テーブルに向かい合って食事を開始。
サシ飲みはあっても朝食は初めてなので、お互いに何か変な感じを覚えつつも今日の流れを確認していく。
「10時の新幹線だから、会社に着くのは午後1時過ぎるな」
「蒼太くんも会社戻るんだ?」
「美琴ちゃんも?」
「うん、課長が半休取って良いって言ってくれたんだけど、休んでも何していいかわかんないし……」
「嘘だろ、せっかく休めるのに。美琴ちゃん仕事脳すぎない?」
呆れと驚きが混ざった表情で蒼太が心配すると、クロワッサンを頬張った美琴がキッと睨む。
どうせ自分は恋愛を遠ざけるために仕事ばかりしてきた人間だし、そのスタイルを急に変えるなんてこともできない。
しかし、そんな事はとっくに知っている蒼太なのに、とまた意地悪されたのかと勘繰った美琴だったが。
「じゃあさ、俺も半休取るから向こう戻ったらデートしない?」
「…………はい?」
「決まり」
「待って、なんでそうなるの……」
突然の提案に慌て始めた時、美琴の視界に入ってきたのは。
先ほど蒼太に話しかけていた二人組の女性で、同じく朝食を食べながらこちらに視線を向けてくる。
そして何やらコソコソと会話する様子が美琴からも見てとれて、直感的に自分が良くないことを言われている気がした。
その時、美琴の中で少しの恐怖心が生まれる。
「……あ、私もう、ご馳走様……」
「は? まだ全然食べてないじゃん」
「朝はいつも食欲ないから」
「え、待っ……」
席を立った美琴は蒼太の制止も無視してそそくさとレストランを出て行き、エレベーター前まで駆け足で向かっていた。