彼女はアンフレンドリーを演じている
ここへきて、再び現実を思い知らされた気分の美琴。
蒼太へ寄せる想いが積み重なったところで、その先の交際となると話は別。
社内でも高く評価されて、社交的で人気もある蒼太が仮に自分と交際したなんてことが周りに知られたら。
きっと、いや絶対、今のような冷たい視線を浴びることになる。
そうならないように蒼太にさえも無愛想で冷淡な対応を続け遠ざけてきたのに、膨らむ想いと恐怖心を天秤に掛けてしまった美琴。
するとそこへ、美琴の後を追いかけてきた蒼太が、息を切らしてやってくる。
「いきなりどうしたんだよ」
「蒼太くんはゆっくり食べててよかったのに」
「俺は、美琴ちゃんと一緒に食べたいの」
「っ……」
そんなイジけたように言わないで、と胸の奥でキュッと締め付けられる感覚が走った美琴が顔を背けた。
蒼太は何も悪くないのだから、追いかけてきたり嬉しくなるような言葉をかけてこなくていいのに。
これ以上深入りしてしまうと戻れなくなると思った美琴が、ちょうどやってきエレベーターに乗り込む時。
いつもの社内用の対応で、蒼太を牽制する。
「今からは業務時間だから……」
「は? まだ……」
「チェックアウトの時にまたロビーで会いましょう、香上くん」
「っ……」
棘のある美琴の話し方に、嫌な空気を読んでしまった蒼太は声を詰まらせた。
そしてエレベーターの扉が閉まり、追いかけてきた蒼太をその場に残していった美琴。
やはり自分は、蒼太を想うような自覚はあっても、どうこうなりたいという段階には行けない。
だったらこれ以上、蒼太に期待を持たせるような事は、しては行けない気がしたから。
「傷つけたくない……」
それが好きな人なら尚更、そう願うのは普通だと信じている美琴が。
蒼太に対して芽吹いた感情も、それに伴って発生した高揚感も、忘れたい記憶として胸の奥底まで埋めた。