彼女はアンフレンドリーを演じている
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帰りの新幹線内ももちろん隣同士の座席だったが、行きの時とはまた別格の気まずい空気が二人の間に漂っていた。
帰りは窓側席だった蒼太は、頬杖をついてずっと景色を睨んでおり、美琴も沈黙したままただただ手元を見つめる。
本当は寝不足解消のために一眠りしたいところを、眠らないように耐えているのは。
蒼太といる間は隙を見せないようにしっかりした姿でいないと、と美琴が考えていたから。
ただ、朝食をしっかり摂らなかったせいなのか、眠気だけでなく体に力が入らないのは流石に良くない。
しかし車内販売を利用すると、また蒼太に何か勘繰られるかもしれないから。
新幹線を下車して会社の最寄駅に到着した後、会社へは別々で向かうよう提案して、そのタイミングで軽食を摂ろうと計画した。
「(蒼太くんに、心配かけないように……)」
それが今の美琴ができる、精一杯の対応だった。
一方で、黙ったままの蒼太もただ不機嫌なわけではなく、あれからずっと考えていて――。
昨夜までは、いや今朝までは。
蒼太が素直に思った気持ちを言葉にしてみると、それに対して美琴も可愛い反応を示してくれていた気でいたが。
全部自分の都合の良い捉え方をしていただけなのか?と、不安に襲われる。
ただこの出張中で、大きく変化した関係性が蒼太の気持ちを逸らせ、常に触れたい衝動に駆られるを必死に我慢していることを。
やはり美琴は理解していないし、それどころか再び距離を置こうとしている。
「(デートしようって言ったせい?)」
そんなことでここまで拒絶されるとは思っていなかった蒼太は、手強い恋のお相手を隣に感じながら大きなため息をついた。
普段は仕事をしている時間に半休が取れたのなら、外で社員に目撃される率はほぼないだろう。
だから街中デートをするには、絶好の機会だと思っていたのに。
美琴と初めてのデートをしたかった蒼太の、残念な思いが晴れないまま。
二人を乗せた新幹線は、もう間も無く目的地に到着予定だ。