彼女はアンフレンドリーを演じている
新幹線を下車した後、電車で会社の最寄駅まで移動した二人。
「……会社向かうよ?」
「はい」
行動について最低限の声かけはするもののぎこちない空気は続いていて、やがて最寄駅に到着すると大勢の人の流れに沿いながら、改札口を出た。
そして先に会社方面に歩き出した蒼太を、今だ、と呼び止める美琴。
「あの……」
「……?」
「私寄りたいところあるので、ここで失礼します」
「……わかった、じゃあお疲れ様……」
「お疲れ様でした」
目を合わせることなく頭を下げた美琴に、蒼太も何も聞かずに要望を受け入れる。
そうして背を向け別々の方向へと歩き始めるも、気まずい空気から解放されたはずなのに、後味は最高に悪くてずっとモヤモヤしている蒼太。
何も言ってくれない美琴に少し苛立ちも覚えるが、それ以上に。
「俺、またやらかしてる……」
美琴の真意を聞かないまま、あれこれと推測して勝手に落ち込んだりイラついたりしている。
そもそも美琴は普段、本当の気持ちを隠し無愛想を演じることに長けた人間なのに、その表面だけを感じ取って納得する事自体が間違っていた。
今の美琴が、何を考えて何を感じて、自分のことを男としてどう想っているのか。
隙なんて関係なく、何か不安に思うことがあるなら、それを吹き飛ばすくらいのことを自分がしなくてはいけない。
なのに、引き止めることもせずに結局、背を向けてしまった。
「…………。」
こんなことでは、また遼になんて言われるかわからないし、それよりも。
いつまで経っても美琴への気持ちが解消されなくて、また会議室の時のように暴走してしまうかもしれない。
しばらく歩いた後、思い立ったように踵を返した蒼太は。
キャスター付きのスーツケースをわざわざ持ち上げて、美琴の向かった方面へと走り出す。