彼女はアンフレンドリーを演じている
今のような瞬間が、いくつも積み重なった時。
果たして自分の理性がどこまで耐えられるのか、初めての試練を前に自信なさげに小さなため息をつく。
「美琴ちゃん、もういいよ」
「え?」
「慣れない出張で疲れてるでしょ、自分ち帰って休みなよ」
「でも蒼太くんがこんなことになったの、私のせいだから。できることなんでもしてあげたい……」
寂しげに俯いて話す美琴は、引き下がることなく引き続き蒼太の世話を望んだ。
だからつい、それは簡単なことではないと教えてあげたかった蒼太は、怪我をしていない右手で美琴の肩をグッと掴み、目を見て諭す。
「そう言って、どこまでできんの?」
「どこ、まで?」
「片付け? 料理? それだけじゃないよ?」
「っ……」
「着替え、トイレ、風呂、全部手伝えんの? できないだろ」
そのフレーズに美琴の心臓がギュッと締め付けられて、体に緊張が走った。
颯太の目がいつもと違い少し怖く、そこまでの覚悟があるのかと問われていることは理解できている。
ただ、自分は今試されているとも思ったから、生半可な気持ちではないことを証明したくて。
目の前にあった蒼太のネクタイに手を伸ばし、ゆっくりと解いていく。
「で……できるよ、全部、してあげられる……から」
「!?」
てっきりここで美琴は絶対怯んで帰宅を選択すると思っていたが、まさか自分の服を脱がせてくるとは考えもしなくて。
言い出した蒼太の方が、全身に緊張が走り戸惑っていた。
ネクタイの次は、ワイシャツのボタンを上からゆっくりと外していき。
たまに布越しに感じる美琴の指先が、自身の胸板に不意に触れると、くすぐったいような、いじらしいような。
そうやって抑えている感情を逆撫でしてくるので、必死に耐える羽目になっている蒼太。