彼女はアンフレンドリーを演じている
「蒼太くんも、同じ気持ちだった……?」
怪我をした蒼太の左手の代わりをしたいと思ったのは本当だし、このまま放って帰るなんて無責任なこともできなかった。
だけど多分、もっと蒼太のことを知りたい、一緒にいたい欲求がゼロだったかと問われると、嘘になる。
だからもし、間違いでも何でもそういう雰囲気になってしまったら。
美琴はどうしたら良いのかと、考えては首を横に振り、また考えた。
社内恋愛はもう懲りた、もうしないと決めたのに。
自分の事を大切にしてくれる社内の人を、また好きになってしまった。
でも、その恋がずっと続く保証なんて一切ないのに。
突き放すのも手放すのも今は辛いなんて、自分勝手もいいところ。
すっかり拗らせてしまった自分の気持ちに、美琴は広いリビングで一人、頭を抱えてうなされていた。
一方、脱衣所に逃げ込んだ上半身裸の蒼太はというと。
「何、させてんだよ俺……」
まるで変態プレイになりかねない状況に、自分の羞恥心と欲心が耐え切れなくて。
壁に右手をつき大きなため息と共に、こちらも美琴に同じく項垂れていた。
怪我の責任を感じているせいか、それとも何か別の理由も混同しているのか。
今日の美琴はあまりに素直で、蒼太の牽制もさらりとかわしながら自分の意思を貫いてくる。
何を頼んでも、無茶ぶりさえも嫌な顔一つしないのなら、今なら情けでセックスもできそうだと一瞬考えた蒼太は。
直ぐに我に返って、額を壁に打ち付けた。
「……そんなつもりは、今はねえし」
美琴の気持ちはまだわからない状態で、答えももらっていないのに、そんな事考える方がどうかしている。
その割には、ワイシャツを脱がされている間は、動悸がおさまらなかったし。
ズボンに差し掛かった時には、限界を迎えそうになって無理やり引き剥がして逃げてきた。
美琴の純粋な厚意を、自分の下心で塗り替えるべきではない。
そう再認識して、まずは冷たい水のシャワーを頭から被り、十分に冷やすことから始めた。