彼女はアンフレンドリーを演じている
だから、自分の好意をすでに知っている美琴が、今こうしてその男の髪を乾かしてくれる行為そのものが。
これからも好きでいて良いと、承認されていると思った。
「……美琴ちゃん、もしかして」
「何?」
「わざと隙見せてる?」
「っ!?」
その質問に一瞬手を止めた美琴だったが、直ぐに再開させて普段通りの声を発する。
「……違いますけど」
「えーほんとー?」
「それよりも、今は蒼太くんの方が隙だらけなの、知ってた?」
確かに、タオルを頭に被り視界を奪われている今の蒼太は、美琴よりも無防備で。
しかしそう言われると、その裏をかきたくなってしまった蒼太の両腕が突然、ノールックで美琴の腰回りを抱き締め顔を埋めてきたのだ。
「わ、ちょっと!?」
「隙あり」
「は、離して……!」
「美琴ちゃん、めっちゃいい匂いするヤバ」
「へ、変態みたいなこと言わないでよ!」
「男はみんな変態なんだよ」
どんな扱いを受けようと構わない気持ちになるほど、蒼太はこの時間が心地良くて愛おしくて、更に強く抱き締める。
すると頬を赤くしながら必死に抵抗していた美琴も、今までの出来事を思い出すと徐々にその力は弱まっていった。
三年前に長屋へ圧力をかけていたという新事実や、地獄の環境から救ってくれた時の記憶。
そして、キッカケはわからないが密かに好意を寄せてくれていた蒼太の心を思うと、胸が締め付けられるほどに嬉しくて。
未だに毛先を湿らせて抱きつく目の前の頭を、優しい手つきでそっと撫でた。
「え……?」
「あ、違う! 今のは……!」
自己中心的な蒼太の愛情表現を、まるで受け入れるかのような反応を示してしまい、驚いた蒼太が思わずその顔を確認すると。
無意識の行動に対して、慌てて言い訳を考えている美琴だったが、多分何を言っても今の蒼太は誤魔化せない予感もしていた。