彼女はアンフレンドリーを演じている
「……美琴ちゃん」
「な、なに……」
真剣な眼差しで見つめてくる至近距離の蒼太から、視線を外すことが出来ない。
「キスしていい?」
「っ……」
「てかもう、我慢できないんだけど」
そう言いながらその場に立ち上がった蒼太の瞳が、紅潮したまま言葉を失う美琴のみを映し出した。
避ける理由も、断る理由も見当たらないから、徐々に距離が縮まってくる間、心臓の音しか聞こえなくて。
だけど、ふと会議室の時と同じ距離感を思い出した時、美琴の手が蒼太の左頬に添えられた。
「……この前の、まだ謝ってなかった」
「え?」
「叩いて、ごめんね……」
そして恥じらいながらも背伸びした美琴は、油断していた蒼太の左頬へと自ら唇を寄せていき、微かに触れるだけのキスをする。
それは会議室で美琴にビンタされた左頬であり、まるで上書きするかのような行為と共に。
不安と恐怖が混じりつつも、まだ明かされていなかった美琴の想いが伝わってきた気がした蒼太は。
状況の理解に時間がかかっているのか、驚いた表情のまま美琴を見つめていた。
「お、お詫びだからね、今のは」
「…………」
「えーと、蒼太くんお腹空かない?」
「…………」
「私何か買ってこようかと思ってたん……っ!?」
これで蒼太を叩いてしまったことへの謝罪は済んだと同時に、キスの要望も叶えたと思った美琴は。
この甘い雰囲気を終わらせるために、日常会話を始めようとした。
しかし美琴の行動は、蒼太にとって良い着火剤となってしまい、再び引き寄せられた唇は会議室以来で二度目のキスを交わすことになる。
「んっ……、っ……」
先程の頬キスでは満足出来なかった蒼太が、より熱の篭った吐息を混ぜて唇を塞いできた。
徐々に深みを増して、互いの舌が絡み合うまでになった時。
これ以上は理性が保てなくなってしまうと判断した美琴が、顔を背けて声をかける。
「待っ、もう終わり……」
「ごめん無理」
「蒼太くんっ」
「抑えらんない」
「ちょっと……っあ……」
美琴の体をもっと抱き寄せて、今度は首筋に唇を滑らせる蒼太。
すると今までにない感覚が走って思わず艶かしい声が漏れた美琴は、更に蒼太をその気にさせた。