彼女はアンフレンドリーを演じている




 密着する体はとっくに熱を帯び、美琴自身も立っていられなくて蒼太の服をギュッと掴むと。
 その健気な反応を感じて調子に乗った蒼太は、美琴の腰元を捲りブラウスの中へ手を忍ばせたところで、天罰が下った。



「痛って!」
「っ!?」
「……捻挫、忘れてた」



 包帯の巻かれた左手首を眺めて少し冷静さを取り戻した蒼太は、憂いを帯びた目をする美琴に申し訳ない気持ちを抱いて、そっとソファに座らせる。



「ごめん、理性失いかけて……」
「い、いえ……」
「何なら殴ってください」
「っそれは、遠慮しておきます」



 会議室の時はまだ、蒼太の気持ちも自分の気持ちも知らないままキスを交わしてしまって驚いたから、つい手が出てしまっただけであり。

 今回は互いに、惹かれ合っているのが伝わるキスだったはずだから。
 そんなに気に病む事はない、と励ますことも出来た美琴。

 しかし――。



「ふふ、捻挫が治るまで大人しくしていなさいってお告げだね」
「っ……」



 また調子に乗られても困るので、微笑みながら忠告だけはしておいた。

 すると、あからさまにショックを受けた表情を浮かべる蒼太が、口先を尖らせて呟く。



「……べつに、捻挫してても抱こうと思えば抱けるし」
「は、はいっ!?」
「でもまだ、その段階じゃないのもわかってるからやめただけ」



 まだハッキリと、どれくらい想っているのか言葉にして伝えていないし、美琴の正直な気持ちも聞けていない。
 そしてお互いに想い合っているとしても、社内恋愛に抵抗のある美琴の不安を拭えたわけではないはず。

 しかし、もう後戻りなんて二度としたくない蒼太は、前進しか考えていないし、その確信も持っていた。



「捻挫治ったら、覚悟しておいて」
「な、なにを……」
「今のうちに言っておく、多分寝かせられないと思うから」
「っな、何言ってんの……!」



 美琴の忠告は無駄に蒼太を燃え上がらせる材料となってしまい、余裕の笑みさえ浮かべている。
 ただ、その笑顔を見ているとやはり心臓は高鳴り、それが高揚感をもたらしてくれるのも事実だと理解している美琴は。

 
 全治10日と言っていた蒼太の捻挫が治るまでの間に、蒼太との関係についての答えと。
 どうやら、抱かれる覚悟を決めなくてはならないらしい。
 


< 91 / 131 >

この作品をシェア

pagetop