彼女はアンフレンドリーを演じている
「……蒼太くん」
「んー……」
「あの、そろそろ手を……」
離してくれないと、身動きが取れないとお願いしようとした時。
わざと美琴の首筋に自身の鼻先を滑らせてきた蒼太は、ほろ酔いどころかもうだいぶ酔っていて。
その戯れ方はマズイと察した美琴が、濡れた手のまま蒼太を押し返し、リビングまで連れて行くとソファに無理やり座らせた。
「っもう! 安静にしてて!」
「やだよ〜美琴ちゃんを目の前に安静になんてできない」
「じゃ帰ります」
「待って待ってわかったから、もうちょっとだけ、一緒にいて……」
「っ…………」
酔うとめんどくさい蒼太が絶賛発動中で、そんな姿を唯一知っている美琴は帰り支度を始めていた手を止めてしまった。
何故ならソファに寝転んだ蒼太が、ウトウトしながらも可愛いおねだりをしてきたので、心が疼いてしまい。
そんな自分に対してため息をつくと、蒼太の顔が見える位置で静かに腰を下ろした。
「ほら、疲れてるのに日本酒なんて飲むから」
「だって……俺の家に、美琴ちゃん舞い降りた……」
「ふ……何それ」
「夢みたいじゃん……」
ずっと待ち侘びていたように話す蒼太に、つい笑みを溢した美琴だったが。
この感じは、もしかすると次の日の朝には記憶がないやつかもしれないとも思った。
ただ、そういう時の蒼太の話は、間違いなく本音だとも知っていたから。
「ありがとう、蒼太くん」
「……うん……」
「蒼太くんがいてくれたから、何とかここまで来れたんだよ、私」
現在だけでなく、長屋と別れた三年前からずっと陰で助けてくれていた蒼太。
その存在に気付かないままだったら、今抱いている感情が芽生えるのはもう少し後になっていたかもしれない。
そこに関しては、正直に話してくれた長屋にも、ほんの一ミリ程度の感謝をしていた美琴は。
今にも寝息を立てそうな蒼太の髪を、流れに沿って優しく撫でると、愛しい気持ちを膨らませた。
せめて眠るまでは一緒にいてあげる、と心の中で囁いて。