彼女はアンフレンドリーを演じている
そして、そんな二人が出張を終えて一度会社に戻るはずだったのに、揃って突然の半休となって姿を現さなかった。
こんな形で、いろんな憶測が女性社員達の間で広まりつつあった月曜日を予想して、この男が企画部にやってくると。
立ち話をしていた二人組に、何食わぬ顔で背後から声をかけた。
「おはようございまーす」
「か、香上さん!? おはようございます!」
「え……どうしたんですかその左手!?」
朝の挨拶を交わして直ぐ、蒼太の左手に巻かれた包帯に気付いた二人組の女性社員は、大袈裟に心配し始めた。
すると、その左手を摩りながら笑顔を浮かべる蒼太は、深刻な怪我ではない事を伝える。
「出張帰りに怪我しちゃって、でも軽い捻挫だから」
「えー! 大丈夫ですか? 片手じゃ何かと不便じゃ……」
「私、色々お手伝いできますよ!」
きっと、女子力をアピールするには絶好のチャンス。
そう思って片方の女性社員が手を挙げると、もう一人も同じように手を挙げてきた。
「家事に困ったらいつでも呼んでくださいね!」
「ちょ、私が先だから」
「そんなの狡い、じゃあ曜日制!」
「ありがとう二人共、でももう治りかけだから不便もないよ(他人のそういうのクソ面倒なので断固お断り〜)」
口から出てきた言葉は当たり障りのない、むしろ優しいものだとしても。
心の声は随分と辛辣な言葉を放っていた蒼太は、笑顔を絶やさないまま手を振って、その場を去った。
そして向かった先は、美琴の上司である課長の下。
「おはようございます」
「ああ、おはよう香上くん。怪我はもう大丈夫?」
「はい、一人だったら面倒で病院に行かなかったところを、冴木さんが付き添ってくれたお陰様で治りも早いです」
「そっか、流石冴木さんだな。しっかりしていて頼もしい」
「はい、本当に色々助けられました。またお借りしたいです」
「えーうちも冴木さんいないと困るから、もうだめー」
そう言ってお互いにハッハッハーと外国人並みに陽気な笑い声を上げて、また親交を深めていた。