彼女はアンフレンドリーを演じている




 お世話になった部署へ、報告と御礼と楽しい会話を終えた蒼太は、続いて始業前にパソコン操作をしている美琴のデスクへ向かった。

 それが今日一番の、蒼太の目的でもある。



「おはよ、美琴ちゃん」
「……おはようございます」
「先週はありがとう、後で小山もお礼しにくると思う」
「それならメールで大丈夫と伝えて下さい、わざわざ来なくていいです」



 一見冷たい物言いだが、足を怪我している小山を知っているため、心配と気遣いから来ているセリフだというのも、蒼太は気付いていた。

 あとは、なるべく小山と美琴を接近させたくない身としては、願ったり叶ったり。



「はは、そうだよな。小山にそう伝えておくよ」
「あと……」



 すると、おもむろに立ち上がった美琴は、蒼太と向かい合わせになり、ずいっと距離を詰めてきた。

 同期とはいえ、今まで社内で接近することも接触することも避けてきたはずの美琴が今、突然蒼太のネクタイに手を伸ばす。



「っ!?」
「曲がっていました」
「あ、ありがと……」
「営業は身だしなみが大事ですから」
「……うん」



 明らかに不意を突かれた蒼太は、ここが社内であることも忘れるくらいに美琴しか視界に映っておらず。

 ネクタイも、怪我している割には気にならないくらいに上手くできたと思っていたら、美琴には気付かれてしまったという嬉しい結果が生まれた。


 用件を終え企画部を退出する蒼太は、案の定ご機嫌MAXとなっており、だけどあからさまに顔には出さないよういつも通りを装って自分の部へと戻っていく。


 ただ、二人のネクタイのやり取りを目撃した、部内の社員達はというと。

 美琴の意外な一面を知ったと感じる者もいれば、俺もネクタイ曲げてみようかなと目論む者。

 あとは――。



「何あれ、指摘するだけでいいじゃん」
「うちらに見せつけた?」
「うわ、だとしたら性格悪すぎ〜」



 蒼太との仲を深めたいと思っている女性社員達にとっては、更に敵視される出来事となってしまった。



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