彼女はアンフレンドリーを演じている
社内では心を閉ざして、人と関わろうとしてこなかった美琴。
そして色恋沙汰に巻き込まれないために、たとえ同期であっても蒼太のような目立つ人気者には特に、無愛想を演じて敬遠してきた。
しかしこの数日で新たに考え直したのは、美琴自らが“関わりたい”と思った人物へは、その必要がないということ。
自分が望んでいることには、誰に何を言われようとその責任は自分にある。
だから、蒼太の曲がっていたネクタイを直す時も、何の躊躇いもなく周りの目も気にならなくて。
そうしたかった自分の意思のままに、行動したという清々しさを覚えた。
「(反感を買ったとしても……)」
その矛先は蒼太でなく自分に向けられるのなら、全く問題ないと思えるようになっていた。
“私に関わると蒼太くんの評判まで悪くなるかもしれない”
以前、居酒屋めぐちゃんでそんなことを話した時、蒼太は突然不機嫌そうに。
“俺が自分で決めて美琴ちゃんと関わってんだよ”
と言って、社内で距離を置きたがる美琴の提案を、頑なに拒んで話は流れてしまった。
しかし、その理由が今なら理解できる。
蒼太が自分のことをずっと気にかけてくれたのも、不機嫌になってまで関係を断つのを拒んだのも。
相手を慕っていた気持ちがあったから、手放したくなかったから。というのを身をもって感じ始めた美琴。
そう思ったらますます、愛おしさが込み上げてきたと同時に。
自分がどれほど蒼太を想っているのか、どうなっていきたいのかも少しずつ見えてきた。
「…………。」
顔の火照りがおさまって姿勢を正した美琴は、大きく息を吸って長く吐いていく。
そして、胸に手を当てるとわかる。蒼太の事を考えるだけで心地良いリズムを刻む心臓の存在。
「(蒼太くんが好き……恋人に、なりたい……)」
社内恋愛恐怖症の美琴が、そのハードルを越えてまで蒼太への想いを、望みを自覚した瞬間。
固く閉ざされていた心の扉が、蒼太の一途な想いでゆっくりと呪いが解けていき、温かい手のひらでそっと押し開かれるのを想像した。