君とゆっくり恋をする。Ⅱ【第6話完結しました】(短編の連作です)

・可愛い子


そもそも、結乃とは同じ会社に勤め同じ路線を使って通勤しているのだから、度々会うこともあり得るはずなのだ。

しかし、最近の敏生の仕事は外回りばかりで、会社にいるのはわずかな時間だった。そのわずかな時間を惜しむことなく、用があるふりをして総務部のあるフロアをうろついてみたり、出来るだけ昼休みの時間には会社に帰り、社員食堂を利用するのが敏生の日常になった。


電話やメールで結乃を呼び出す勇気のない敏生は、わずかな時間で結乃と出会える偶然だけを頼りにしていた。結乃と出会えて会話せざるを得ない状況になったら、膠着している現状をどうにか打開できるはずだ。

そう思いこんでいるあたり、敏生は可哀想なくらいの恋愛音痴だった。


――あーあ、俺も総務部だったら、もうちょっと接点があっただろうに……。


営業部で誰も追いつけないような成績を上げていながら、こんな稚拙な発想をするようになるくらい、敏生の思考はかなり《《来て》》いた。それほど、結乃ときちんと面と向かって出会えることが、全くと言っていいほどなかった。

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