君とゆっくり恋をする。Ⅱ【第6話完結しました】(短編の連作です)
「すみません…。あの……」
口ごもってしまう自分が信じられなくて、敏生は開いていた口をキュッと引き結んだ。
「なんだかお前、顔色悪いぞ。調子悪いんじゃないのか?」
鳥山が横から口をはさんで、困っている感じの敏生を助けてくれる。こんな風に誰にでも何気ない気遣いができるのが、この男が女たらしだけにとどまらない〝人たらし〟と評価されるところなのだろう。
「そうだね。意見を聞くのは今日じゃなきゃいけないわけでもないから、また社内メールでやり取りしてもいいしね」
古川さんは柔らかく微笑みながら席を立った。
古川さんは絶対に部下を責めたりしない。こんな人が上司でいてくれることがありがたくもあったが、それが単なる幸運だったと思えるほど、敏生は自分に甘くはなかった。