君とゆっくり恋をする。Ⅱ【第6話完結しました】(短編の連作です)


その笑顔に後押しされて、敏生は深く息を吸い込むと自分を奮い立たせた。


「それで、お礼をしたいんだけど……」

「そんな、お礼なんて……」


結乃は即座に首を横に振って敏生の好意を遠慮しようとしたけれど、敏生の顔を見て、単に社交辞令を言ってるわけではないことに気がついた。


「今度の土曜日空いてるかな?食事でもごちそうしたいと思ってるんだけど」


――よし!言えた……!!


敏生は心の中で大きなガッツポーズをした。結乃も小さく息を呑み込んで敏生の言葉の意味を考えると、パッと表情を明るくさせた。

ここまで来るのに、どれだけ長かったことか。
首尾よくいけば、食事と花火大会にかこつけてデートだってできるはずだ。結乃はもしかして、浴衣なんて着て来てくれるかもしれない。

――片桐さんの浴衣姿かぁ…。やばい…、絶対可愛いに決まってる!!


敏生は爆発的に広がっていく妄想を追い求めるのに忙しく、結乃の表情に迷いが加わり、さらに落胆で覆われてしまったことに気が付かなかった。


「……残念だけど、ごめんなさい。今度の土曜日は、先約があるの。私が取りまとめ役だから、どうしてもキャンセルできなくて……」


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